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ゴースト・ワイフ

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奈央はソファに座った。
子供達は目を閉じてソファに座っていた。僕がそうさせたのだ‥
テレビはつけていない。テレビから聞こえてくる音で子供達の集中力を妨げになると思って。また‥テレビは主電源も落としていた。リモコンが手に触れてテレビがついてしまうかもしれないから。

僕には奈央が見えない‥奈央は見えているが。奈央の動きが見えるように、僕は青い布を用意した。奈央は青い布を手首に巻いたら「スキンシップ」の開始の合図であることを、僕はまたホワイトボードに書いておいた。

子供達には僕はこう言った。
「今からさ‥パパの言う事よく聞いて欲しいんだ。信じられないかもしれないよ‥パパも最初は信じられなかったんだ。ママは天国に行っちゃったよな‥でもね。まだいるんだよ。パパと翔太と沙希のそばに」

二人の子供達は目を丸くした。そりゃ‥驚くだろう。ママは天国に行った‥もう姿も見えないし声も聞こえないんだぞ。って僕が言い聞かせたからさ。その僕がこんな事を言うもんだから。翔太と沙希が僕の顔を見て言った。
「パパ‥いったでしょ。もうママはいないんだって」
「もうあいたくても‥あえないよ。声もきけないって」

僕はうなづきながら‥二人の頭をなぜて言った。
「言ったよ‥パパも翔太と沙希と同じように思ってたんだ。最近まで‥実はね」
僕は奈央とのやりとりに使ったメモパッドを子供達に見せた。
「ま‥ママの字だ」
「ホントだ‥ママのマークだ」
子供達に書かせたノートも見せた。子供達がママに聞きたい事があったら書くようにと渡したノートだった。翔太の書いた「ママへ」の作文に花丸マークが入っていた。沙希が書いた作文にも。子供達はこのマークを見てまた目を丸くした。

「これって。ママがよく書いてくれたマークだったよな」翔太と沙希はうなづいた。
「これってイツ書いた?」
「ママが‥いなくなってから」
「すいようび‥だよ。パパがノートくれたの」
「うん。だからママはいるんだ‥パパはママの字をマネして書けないよ。パパは右手で鉛筆を持つから。どーしてもマネができない所があるんだ。ママは左手で鉛筆持ってたろ」
子供達は納得したようだ‥奈央は左利きで、お箸も鉛筆も左手で持っていたから。

子供達の目の前で、青い布が上下した。奈央が最後の1回を使い始めた合図だ。
「ママ?」
「いるの?そこに」翔太と沙希は青い布を見つめた。
青い布はまた上下に動いた。翔太と沙希は青い布を指で触った。青い布は二人に引っ張られて少し引きつっていた。奈央が泣いている‥青い布に涙の跡がついていた。

子供達は目をこすりながら‥奈央に話しかけた。奈央はその問いに‥ペンを持ちそばにあったメモパッドに文字を書いた。
「ごめんね‥もうあえないの」と‥またこうも書いた。
「てんごくでいのってる‥しょうたとさきのこと」
書く字が段々小さくなっていった。もう時間が迫っているのか?

私の横で大天使様のお使いの男が立っている。最後の1回を使い始めた直後から私の横にいるのだ。男が自分の腕時計を見ながら‥私に指で残り時間を示す。
「後4分だ‥もう扉が開きかけているぞ。夫にも何か言ってやれ」
私はペンを持って、メモパッドに急いで字を書いた。智!見て‥手首に巻いた青い布を一生懸命上下に振った。 
作品名:ゴースト・ワイフ 作家名:楓 美風