目覚めると…
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夢の中で、新神戸駅に降り立った私はホームから足が動かなかった。動きたくても動けなかった‥目の前のホームで何本の新幹線を見送ったのだろう。不思議な事にそんな私に声をかける人がいない。夢の中だから?ホームに降り立った人達は改札を目指してエスカレーターを昇って行くのだ。私も昇りたいんだけどな‥でも足が動かなかった。
その時だった。私は肩を叩かれた。振り向くと‥母と妹の美菜だった。美菜は学校帰りなのだろうか?セーラー服を着ていた。母はいつも着けていた白いかっぽう着と水色のカーデガンを着ていた。そのカーデガンは私の初任給で母にプレゼントしたものだ。喜んでくれて、毎日そのカーデガンを着ていた母だった。
二人は私に笑ってこう言った。
「おかえり。美咲ちゃん!」
「お姉ちゃん‥お帰り!」と‥
私は首を振って‥言った。
「か‥帰って来たワケじゃないんよ。ゆ‥夢の中にいるの私!だから帰れないよ。それに帰れない。上京する時にあんな大口叩いたんだよ。帰れないよ‥もう帰っちゃいけないんだよ!私みたいな娘は」
二人は私の手を引っ張り‥また笑った。
「何言ってるん‥アンタは」
「お姉ちゃんどーしたん?ヘンなの」と言うのだ。
私が帰るのを渋っていると‥母が私の背を両手で優しく抱きしめてくれた。
「娘はね‥いくつになっても娘なんよ。娘が東京の空の下でどんな風に暮らしているのか、元気に暮らしているのか。母親としては毎日気がかりなんや‥ソレにあの家はアンタの家でしょ。誰が帰って来たらあかん言うた?おかぁちゃんイツ言うた?」
私はその言葉を聴いて涙が溢れた。その涙を母は指で優しく止めてくれた。美菜は私の手をギュッと握って。
「そうやで‥私お姉ちゃんがいてんから寂しい。ケンカ相手いてんしね」と言った。
私は鼻をすすりあげながら‥
「か‥帰るぅ。神戸に帰りたいぃ‥おかぁちゃんと美菜と暮らしたい」と母の肩に顔を押し付けて泣いた。
母はそんな私をまた抱きしめてくれた。