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哀しい夕暮れ

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公園

  

 私と父は家の近くの公園まで歩いた。父と歩くのは随分と久しぶりだった。
「麻奈は‥お母さんが家を出てからこの公園に来なくなったな。覚えてるか?」
「うん。お母さんが出て行ってから‥お父さんはよく遊んでくれたよね。家の中でも庭でも。公園にも行こうって‥でも私はイヤだって言ったの」父はうなづいた。

 母が出て行って、泣いてばかりの私を父は父なりに慰めようとした。おもちゃを買ってきたり、ケーキやお菓子も買ってきた。また二人で遊べるゲームもした。
お天気の良い日だった。父が「バス通りの公園に行こう」と私を誘ったが‥

 私は母が出て行った時の事を思い出して、泣きだしてしまった。父は軽い気持ちで言ったのだろう。私には軽い気持ちは通じなかった。公園は母と別れた辛い場所だったから。父はそれ以来私を公園に誘わなくなった、

「お父さんは甘く考えていたんだ。麻奈の事もお母さんの事もね。子供は公園で遊んだら機嫌が良くなると軽く考えていたし。お母さんもその内慣れるだろうって思ってた。でもそれは逃げてたんだよな。麻奈に対してもお母さんに対しても」
私は父の顔を見た。

「お父さんが一番悪いんだ。見て見ぬフリをした。両親に何も言えなくて。お母さんにはガマンばかりさせてしまった。お母さんは、おばあちゃんと折り合いが悪かったのもあったけど。お父さんに呆れて出て行ったんだ」

「私‥そんな事聴いてないよ。おじいちゃん達はお母さんの事ばかり悪く言ってたよ。ガマンが足りない‥ガサツで教養もナイって。だからお父さんが嫌いになったって」父は首を振った。
「違うよ‥さっきお父さんが言ったことが真実だ。お母さんは悪くないんだ。だからお父さんは謝るよ。17年分イヤ結婚する前からだな。さぁ行こう」
父に促されて、歩く速度を速めた私だ。

 公園のベンチに初老の女性が座っていた。膝の上に手を置き‥軽いため息を吐いた。そして空を見上げた。
「もうすぐ夕暮れね‥」とつぶやいた。

このシーン見たことあるわ。私の脳裏に鮮やかに記憶が蘇った。母と私はよく晩ご飯まで公園に遊びに来ていた。母と遊び‥母は疲れたらベンチによく腰かけていた。
そして‥日が暮れだすと言った。膝の上に手を置き‥軽いため息をついて。
「もうすぐ夕暮れね‥麻奈」と言った。そして母と二人で家に帰ったのだ。

 父が私の背中を軽く押した。そしてうなづいた‥
私は母に向かって歩き出した。私の後ろでは夕暮れが迫っていた。
「お母さん‥麻奈です」と声をかけた。

 母が泣いた‥私の胸に顔をうずめて。また父も目を肩で押さえながら泣いた。私の涙は母の髪に落ちた。母と17年振りの再会だった‥

 母は手の甲で目をこすりながら言った。
「お母さんも麻奈と同じだったの。夕暮れを見たらとても哀しくなった。泣きそうになったの。夕暮れの中で麻奈が泣いているのを思い出してね」
「そうなの‥」私は父と母の手を握り、私は言った。
「じゃ‥もう終わりにしよう。夕暮れを見て哀しくなるのは終わりにしよう。今日で終わったんだよ。お父さん・お母さん」
 両親は赤くなった目で‥私に笑った。
作品名:哀しい夕暮れ 作家名:楓 美風