ダブルな顔
第3章 シークレット・ファイル
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私はベッドに入ってからも眠れなかった。立野ゼネラルマネージャーと武田さんの言葉が頭から離れないのだ。
立野ゼネラルマネージャーがレストランの個室に入って来てた。武田さんと私は立ち上がって頭を下げた。
「あぁ‥いい!いい!今は社外・アフターだからね。座って」
「はい‥」私達はイスに腰を下した。
私はフォークを持ったまま‥カタまってしまった。異次元の世界の話を聞いているのだろうか?
「榎本さん!こっちの世界に帰って来て」武田さんが私の手を軽く叩いた。
立野ゼネラルマネージャーは口に手を当てて笑った。
「そ‥そんなに私の話は異次元レベルだったの?榎本さん‥イエ!さくぴー」
「さ‥さくぴーって?」
「桃姫のメイドが言ったの。個室から私の携帯に直コールを入れてきたわ。何て言ったと思う?」
武田さんと私は顔を見合わせた。
「今のスタッフ‥私の専属にして!榎本さんって言ったわよ。下のお名前は何?って聞いて来たから。ひらがならで「さくら」と教えたら。じゃ‥さくぴーって呼んじゃう。さくぴーに言っておいて!おうちのくまちゃんにぜひ逢いたいって」
横の武田さんは耐えきれなくて‥とうとう笑いだした。
「さ‥さくぴーですか?あの方がそんな言い方‥ックック」
「うん。もうご機嫌でね!今度はさくぴーのくまちゃんとうちの桃姫で遊びたいわって。榎本さん‥大丈夫?」
私は完全にカタまってしまった。
気付けにシャンパンを飲まされて、少し現実の世界に戻った私だった。立野ゼネラルマネージャーが私の目の前にホワイトファイルを手渡した。武田さんはカバンの中からブルーのファイルを取り出して同じように、私の目の前に置いた。
「このファイルはね‥選ばれた人しか見ることがデキないのよ。榎本さん‥今日の事もあるけど。私はあなたが初日に挨拶に来た時から素質があるんじゃないかと思っていたの。武田さんもそう思ったから‥今日の行動に出たのね?」
「はい。この榎本さんなら違和感なくお相手がデキるかと思いましたので。榎本さん‥ファイルの中を見て」
立野ゼネラルマネージャーもうなづく。
ファイルの中を見て‥また愕然とした私だ。震える声で‥二人に聞いた。
「あり得るんですか?こんなシステム」
二人は私の顔を見て、笑顔でうなづいた。
「研修の時にはお聴きしていませんが‥」
立野ゼネラルマネージャーがまた‥私に笑顔で言った。
「言ってないわよ。その時はまだ素質が確証デキてなかったから。VIPの中にはこんなシステムは必要ない方もいらっしゃるわ。でも、中には必要な方もいらっしゃるの。その方達は各界に於いて重鎮な人物なの。私と武田さん‥あなたを連れて来た派遣会社の担当者はそのトップリーダーから役目を仰せつかったの。この方達が100%の能力を発揮できるように環境を整えるよう命令を受けたの。その方が誰なのか‥まだ榎本さんには言えないわ」また武田さんも言った。
「そのうちお話するからね。このファイルは‥そのVIP様達の「癒しリスト」なのよ。私達は‥その「癒し」にお応えできるように。万全のサービスをするの‥榎本さん!」武田さんは私の手を握った。
また、立野ゼネラルマネージャーも私の手を握った。
「私達と‥一緒に頑張らない。チュープレス・スポーツクラブの「癒しメンバー」として。お給料は今より‥」
私の耳元でささやいた‥立野ゼネラルマネージャーだった。