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ダブルな顔

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<3>
 「失礼します‥フロントの榎本です」
ドアが開いた‥私は一礼して中に入った。
 私の目の前の出来事は‥現実だろうか?それとも夢なのか?信じられなかった。私の目の前には男性がいたのだが。身につけている洋服は「メイド」スタイルだった。そしてソファには大きなくまのぬいぐるみが座っていた。そのくまのぬいぐるみにも洋服を着せていた。またそのくまにも同じようにエプロンを付けさせて。

 その男性メイドは、泣き腫らした眼で私を見ていた。
「どうかなさいましたか?」武田さんに教えられた通りに言った。
男性は指でくまのぬいぐるみを差して。
「わ‥私が悪いの。ご主人様に(くまのぬいぐるみ)お茶のお給仕をしようと思って」
私はご主人さまを注意深く見た。

「もう大丈夫ですよ。ご主人さまはキレイになりますよ‥こうやって」
私はぬるま湯で浸したガーゼを、指に軽く巻き付けてご主人様の頬を押さえた。
「ほ‥ホント?キレイになる?ご主人さま」目をこすりながら言った男性メイドさんだった。
「はい‥洗剤を使うよりこの方がいいですよ。このご主人様はイギリスXXXX社のプレミアムベアちゃんですか?私も大好きで家にいますすよ。名前も付けてます」私の言葉に男性メイドは目を輝かせた。

 私はそっとドアを閉めた。コーナーで待つ武田さんの元へ歩き出した。
心配してたのか‥武田さんは私の姿を見て駆け出した。
「どうなったの?大丈夫だった?」口早に言った。
「はい‥今は一生懸命にお顔を拭いてらっしゃいますよ。愛しの桃姫の」
武田さんはホッとした表情を浮かべた。
「榎本さん‥今日は何か予定がある?お食事に行かない」と言った。

 仕事が終わってから私は武田さんとイタリアレストランに行った。それも個室だった。
「今日はどうもありがとう。すごく助かったわ‥榎本さん」
私のグラスにシャンパンを注いでくれた。
「イイエ‥武田さんが事前にレクチャーして下さったから」
少し顔を赤らめた私だった。
「ううん。アナタは思った通りの人ね!今日はココにお誘いしたのはワケがあるの。もう1人後で来るのよ。その時にお話するわね。今は食事とシャンパンを楽しみましょう」笑った武田さんだった。
 
 聞き上手な武田さんだ‥私はあまり自分の事を話すのは好きでない。だから学生時代も聞かれたら一般的な答え方をしていた。でも武田さんの話術にハマったのか‥聞かれるまま答えてしまった。
「そう‥あの方はね。あなたも名前ぐらい知ってるでしょう」
「はい‥研修の時に見せて頂いた時はビックリしました。あまりにも有名な方で」
「あの方は経済界では有名よね‥でもね」

 武田さんの言いたい事わかった。
「疲れるんですよね。すっごく‥だから」また武田さんもうなづく。
「精神のバランスを取るにはあの部屋とご主人様は必要なのよ。あの方にとって」
「そうですね。癒しですか?あの方にとっては」
「うん。それでね‥アナタの意向を確かめたいの‥だから今日は誘ったんだ」

 私はどうやって帰って来たのか記憶がなかった。酔っ払ってとかじゃない。武田さんと後から来た人物に話しを聞いてから‥所々記憶がナイのだ。ちゃんとしゃべれたのだろうか?またその人物とは立野ゼネラルマネージャーだったから。
作品名:ダブルな顔 作家名:楓 美風