俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第一章・第二話】
衣好花はダルマに手足を付けて歩かせてみたが、すぐに倒れた。
「やっぱり役立たないだです。オマル以下。そこまで言うかです。ならばこうしてやるぞです。合隊の字。」
バラバラだった小さな手足がアリジゴクに落ちたアリのように集まっていく。これはかなりキモい。そしてそれらはだんだんと生物らしきモノを形成していく。
「完成したです。すばらしきショタ像だです。これぞ、名付けて、ショタイゴちゃん。擦魔の字。」
衣好花は恍惚としてショタイゴちゃんをすりすりしている。
「こいつら、ヤバい人種だ。家に連れて行って大丈夫か。」
こうして大悟たち一行は新たな居候を伴って帰宅した。
「これって、まるで小さい頃のお兄ちゃんじゃない!萌えた!パンチラ、パンチラ、パンチラ!」
桃羅は狂ったようにリンボーダンスを始めた。居候受入れ可の意思表明である。
家は大きいので、部屋(ハード)には問題がなかったが、人間関係(ソフト)はスーパーコンピューターでも解析できない複雑な状態を惹起した。
騙流たちがやってきた翌朝、ヒンニュウ着信音が目覚まし代わりにうるさく鳴った。
『大ちゃん、モモちゃんへ。朝からラージえっちはダメたからね。スモールえっちは一夜分が溜まってるから仕方ないけど。』
「朝からひどいメールだな。」
『そうだよ、お兄ちゃん。朝えっちはせめてミドルかメザニンじゃないと。』
「メザニン?中二階とかどういう意味だ?中二病の親戚か。」
『知りたいの?お兄ちゃん、朝からスモールえっちだね。』
「余計なことを聞いてしまった。それより続きを見なければ。」
『そうだよ。続きだよ。継続は力なりだよ。』
「母さんはこちらのボケ、ツッコミを読んでるな。まるでルル●シュだ。」
『駅近くのショッピングモールに饅頭人喰疑者が出たんだよ。放課後大至急急行してね。』
「放課後まで待ってって言ってるのに、大至急もなかろうに。」
『放課後になったら、急いでって意味だよん。あまりに早いとモモちゃんがかわいそうだからね。』
「意味不なことを言うな。」
『モモちゃんは教師のお仕事があるからだよ。社会人の責任は地球よりも重いんだよ。』
「大げさ過ぎるぞ。」
『今回から騙流ちゃんと衣好花ちゃんも一緒だよ。女の子ばかりでハーレムになるけど、大ちゃんのリビドーはママが独占採掘権を持ってるからよろしく。』
「ホントわからないメールだな。偽物の宝地図だよ。なあ桃羅。」
「むむむ。ママを侮れない。お兄ちゃんはモモが守りながら掘っちゃうからね。」
「ますますわからねえ。とても血のつながった親、兄妹と思えない。てか、エロさは塩基配列が見えるようだが。」
「お兄ちゃん、それは誉めすぎ。照れるよ、デレるよ。」
「誉めてないし、照れ、デレは出入り禁止だ!」
こうして放課後となり、ショッピングモールに到着した大悟、楡浬、騙流と衣好花。
《わくわく。新しいダルマ、買う。》
「わ~い、わ~い。久しぶりのお買い物。嬉しさ余って、肉じゃが百杯。物食の字。」
騙流は無表情ながらダルマ文字が踊っており、衣好花は満面の笑みに加え、額文字がピースしている。
ハイテンションなふたりを見て、大悟の気持ちもやや高揚していた。騙流たちは饅頭人に食われて、助けられたものの、いきなり大悟家に居候となるという、生活環境の大きな変化に耐えられるのか、彼女たちの最初のミッションが変なプレッシャーを与えないかと大悟は不安視していただけに、安堵感は大きなものであった。
「よし、それじゃあ、自分探しついでの饅頭人探しをやるか。キッシンジャースイッチオン!」
「スイッチオフクローズよ。」
「楡浬。そのセンスの悪いフレーズとスイッチオフはいったいなんだ。」
「もう少し冷静になりなさいよ。こんなにたくさんの人がいる中で、キッシンジャーという超絶不埒な行為を働いたら、暴れん坊敗戦将軍として、ソッコーで逮捕されちゃうわよ。」
「それはわかってるさ。サムライが腰に差したモノを抜く時ってのは、生き様を決める時だ。それまでは自分を泳がせておくさ。答えはそこにある。」
「どこよ?」
「わざとらしくキョロキョロするんじゃねえ。ちゃんと作戦を考えているんだぞ。」
「こんな大公衆の面前でキスなんてする女性がいるのかしら。」
「そりゃ普通なら無理だろう。だから、キスしても不自然ではないシチュエーションをこちらで作るのさ。」
大悟の作戦とはこうであった。
モールのイベント広場に賞品の出るブースを設ける。そこで、ゲームを行う。まずは、頭が入る大きさの箱を用意して、そこに顔を入れてもらい、目隠しをして、お試しリップ、つまり唇になにかを当てて、それがなにかを当てようクイズ。次に定番のポッキーゲーム。ポッキーを両側から食べ始めて、大悟よりも多く食べれば賞品ゲット。
「まず見せてみよう、クチビル。リップサービスお試しリップします。なにかを当てようクイズ。」
「でもあんたがいて女性が安心してやってくるかしら。心配ご無用。こうだ!」
ロングヘアーのウイッグに女子用の赤いブレザー。女装大悟がここに誕生した。
大悟は箱の中身当てとポッキーゲームのブースを行ったり来たり。すごい数の処理をこなしていたが、なかなか饅頭人にヒットしない。滝のように汗が流れ、息も完全に上がっていた。来る女子も若い子はほとんどなく、オバサンがたくさん来て体力消耗する大悟。
「使えないわね。何ダレてるのよ。キッシンジャーの名前が泣いてるわよ。第一、今まで趣味のように楽しんでいたんじゃないの。いつもの生き生きとした野良犬根性はどこに置き忘れたのよ。」
「だ、誰が野良犬だ!ハアハアハア。」
すでに大悟はパンクした自転車のようだった。
騙流はダルマショップで店の商品ダルマに、自分のダルマにならないかとナンパしているし、衣好花は駄菓子屋の食玩的オモチャを見て、どれが自分の武器に使えるかという物色活動に忙しかった。
大悟はふたつの地獄ブースに、地獄ウサミミ楡浬の毒舌という三面楚歌地獄に喘いでいた。心頭滅却すれば火もまた涼しとは言うが、どんな物質にも沸点があるように、耐えるには限界がある。
『バタン。』
大悟はイベント広場の床で大文字焼きとなった。ビックリして楡浬が大悟に駆け寄り、からだを揺するが、呼吸している様子のない大悟。心肺停止の状態である。あまりに過度な強制労働で、心臓がパンクしたらしい。
「ちょ、ちょっと大悟。どうしたのよ。息してないわ。これは命令よ。早く呼吸を開始して、心臓を動かしなさいよ。キッシンジャーならできるはずよ。できないなら、キッシンジャーの免許取り消すわよ。」
床で不動明王の大悟に、すっかり気が動揺している楡浬。大悟の胸に耳を当てると、あるべき振動、心音がどちらも伝わって来ない。
「う、ウソでしょ。すぐに起きてウソだと言わないと殺すわよ。・・・。だ、だれか助けて~!」
イベント広場中を揺らすような楡浬の声にも反応なし。膝から崩れ落ちる楡浬。
作品名:俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第一章・第二話】 作家名:木mori