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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第一章・第二話】

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「なにか言いたいことがあるんでしょ。そんな哀れみとお涙頂戴的なオーラを醸し出すのはやめてくれる。空気が重苦しくて牢獄にいるようだわ。」


「そう感じてくれてありがとう。」


「全然感謝されたくない空気に支配されたわ。早く仕事を終わらせてよ。ケンカしてるふたりのどちらかが喰疑者なんでしょ。それしか選択肢がないわ。」


「突き放さないでくれてありがとう。さすがオレが認めていない許嫁だ。」


「なんだか、棘と毒を感じるような言い回しだけど。」


「気にするな。じゃあ、やるぜ。キッシンジャー、フェイスドッキング!」

 
「そのキャッチコピー、最低だわ。」


「こいつらまだケンカしてるけど、どちらかが饅頭人だ。まず小さい方からやるぞ。」


キスには無抵抗、大抵は暴れるが、大悟が近寄ると、ふたりとも大悟の方を見ている。外見上は女子高生。それもけっこうかわいい。


「ちょっと大悟。あんた、今、かわいいとか思って、欲情スイッチ入れたでしょ?」


「そんなことはないぞ。欲情スイッチは手動ではなく自動だ。現代はクルマ運転も自動の時代。欲情スイッチもオートタイマーだ。」


「つまりスイッチオンを認めたわけね。」


「ネーチャーコールミーはオレのせいじゃない。そんなことより、なんだか変なイメージが浮かんだんだよな。」


キスした瞬間に瓢箪のようなものがアタマに浮かんだ。
次に背の少し高い方の女子をロックオンした大悟。こちらもなぜかほとんどノーレジスタンスで大悟のキッシンジャーを受け入れた。あまりの容易さに拍子抜けした大悟は、欲情というモチベーションを喪失した。大悟をガン見していた楡浬は、フーッと安堵するように息を吐いた。
キスされた女子は通常饅頭人に戻ってしまうが、このふたりの女子のからだは変化しなかった。


「これはいったいどういうことだ。喰疑者は饅頭人じゃなかったのか?あるいはここに饅頭人がいるというのは誤報だったのか?」


貧乳携帯着信音が大きく聞こえた。
『ママだよ~!大ちゃん、ママは間違ったりしないよ。大ちゃん産んだのは巨大な間違いだったけど。』


「オレは間違いで生まれた不倫な子だったのか?」


『冗談だよ、半分。ますます不安が積乱雲化したんだけど。まあまあ間違いの話は老いといて。』


「老いるのかよ!」


「失礼だよ!まだママは純潔なんだから。」


「自分で言ってるんじゃないか。間違いと純潔は正反対の概念だろ?」


『あらあら、大ちゃんもオトナになっちやったね。とにかく、そのふたりの饅頭人的女子は人間だから大丈夫だよ。自己紹介でも聞いたらいいよ。じゃあね、そこの女の子たち、売買。』


「そんなバイバイってあるか!」
 改めて大悟は小さい方の女子を見た。
身長は130センチに満たない黒いおかっぱ頭の女子。赤い目は目尻がややタレ気味で、小さな鼻と桜のつぼみのような唇。ほっぺはシルクのような艶のある白さを誇っている。頭と腰に大きな赤いリボンを付けているのがよく似合っている。
どこから見ても幼女であるが、赤いブレザーにプリーツスカートで、黍尊高校生徒である。スカートはどこの女子高生も短いものではあるが、この女子のスカートは特に短い。パンツまでの推定距離は1センチに満たない。これではほんの少しの風で、中身が露出してしまう。見ているだけで、ひどく緊張する。


次にもうひとりの女子。こちらは山吹色髪の美少女である。髪を両肩のところで円を描くように巻いている。但しその形は○(まる)ではなく、S字に湾曲している。大きな瞳には少女漫画のように星がきらきらと輝いているが、その形は波目型で、Sを横にしたように見える。先の曲がった黒い帽子にはSという文字が書かれている。S字の大人買い状態。


 『ふたりは魔法伝家家元だよ。お家で面倒見てやってね。大ちゃん、大えっちなこと、しちゃだめだからね。小えっちはいいけど。』


「小ならいいのか。てかそのランクの基準と概念は何だよ。って、だれがそんなことするか!」


『そうだよ。大ちゃんのおかずはママだけなんだから。ママへの中えっちまでなら容赦なく認めるよ。』


「誰がおかずだ。容赦ない中えっちもいらん。」


「ホント、煩悩の塊なんだから、危なっかしいなんてものじゃないわね。ザルでイヤらしいことを掬うようだわ。」
 楡浬はテストのヤマを外した女子中学生のような顔をした。


ママの携帯電話は続く。
『小さな女の子は無籠騙流(なくこもだまる)ちゃん、もうひとりは土井衣好花(どい えすか)ちゃんだよ。ふたりともうっかり、ちゃっかりミスで饅頭人に食べられたんだけど、魔力があるから、本来の姿をなくさずに済んだんだよ。大ちゃんと仲良くなること、請け合いだから、許嫁モドキか、ナグサミモノ一号二号に任命してもいいけど。』


「勝手に任命するんじゃねえ。」


騙流たちはケンカしているが、大悟が「ケンカをやめろ。」と言うと、ピタリと彫像のように固まった。


「おい、どうした?気分でも悪いのか。意識が新世界の扉でも開けたのか。」


騙流から小さなダルマが離れて空中でくっ付いて何かを形成している。


「これはなんだ。文字みたいだけど。声に出して読んでみて。と読めるなあ。その次は、抱いてほしい?」


大悟の声を聞いて、騙流は全身を揺すって、小さなからだをさらに丸めた。すると一気呵成に立ち上がり、からだよりも高くジャンプ。そのまま大悟の腕に背中を預けた。お姫様抱っこの完成である。


「わわわわ。なにがしたいんだ。」
《まる、抱いて。》というダルマ文字が大悟の面前に展開された。
騙流のお姫様抱っことほぼ同時に、衣好花も顔を大悟に向けている。


「あたいはショタ大好物だです。豪慾の字。」
豪慾という二文字が額に浮かんだ。


「なんだこいつらは。ダルマ文字に額文字?ノーマルじゃねえ。」


《まる、アブノーマルプレイ、オッケー。》
再びダルマ文字が空中展開。


「ショタはアブノーマルじゃないぞです。範内の字。」
こちらは連続額文字。


さらにふたりは続けた。


《まる、ダルマ使い。ダルマ、操るのが得意。》
騙流はハムスターのリングのようにダルマ軍団を宙でぐるぐると回転させた。


「あたいはギミック魔法だです。その一部を恥ずかしげに公開するぞです。周恥の字。」
衣好花の額に心なしか紅色が差した。そして、衣好花はどこからともなく奇妙な物体を多数出してきた。


「これは、小さなマネキンの手足じゃないか。それもかなりリアルで、生きていたみたいだし。すごく不気味だぞ。」


「不気味とは失礼な。これは本来手足のないダルマに付けて使うものだです。使着の字。」


「つまり、騙流のダルマと衣好花のギミックを合成すると完成バージョンとなるということか。」


《その通り。バカと手足、使いよう。》


ダルマ文字が作られた。それを見た衣好花が表情をドス黒く変えた。
「そんなことを言うからあたいたちはうまくいかないんだです。憤過の字。」


《それ、まるのセリフ。悪いの、ギミック手足。付けても使いものにならない。》