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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第一章・第二話】

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「ちょ、ちょっと待ってよ。今、ブースターを付けているところなんだから。」
楡浬は自分の背中に銀色の亀のような形のものを装着している。


「まだか?」


「準備完了よ。レディゴー!」
背中に孫亀湯たんぽを装備した楡浬を、子亀として背負った親亀の大悟が、饅頭人に向かっていく。
ほぼ毎日お経のように同じトークと行動を繰り返した大悟と楡浬。
 


ある日、協会からの連絡のあった学校にいってみると、やたら太った女子ばかり。校内に饅頭店があった。そこで格安な饅頭が販売されていた。
生徒会長はデヴィ(でぶい)女子高生だった。大悟たちと面談最中に、生徒会長はたまたま生徒手帳を落とした。その写真ではスレンダー美少女だった。太ったことを嘆く生徒会長だが。


「遠慮なさらずに召し上がってください。」


デヴィ生徒会長は言いながら自ら食べていく。大悟はさすがにキスしたくなかったが、楡浬に促された。


「相手がデブで安心できるわ。」
 楡浬は一旦そのように口にした。


「いやなんでもないわ。」
 政治家のようにあっさりと前言撤回した楡浬。


「早くキッシンジャーしなさいよ。」
ニンマリしながら大悟に命令する楡浬。大悟は仕方なく生徒会長をキッシンジャーすると、すごく甘い。


「これはすごくいいテイストだ。こんな甘さ、経験ないぞ。」
大悟のキスはすっかりディープになってしまった。


「ちょ、ちょっと大悟。キッシンジャーは饅頭人の判別のために行うものよ。今のあんたは違う次元を走っているわ!」
慌てて大悟を抑える楡浬。結局、生徒会長は饅頭好きで太っただけで、饅頭人ではないことが判明した。他のデヴィ生徒を当たったがやはり甘いだけで饅頭人ではない。


「デヴィ生徒は人間だわ。」
 楡浬はそう断定して、太っていない女子を探すことにした。休憩時間となり、生徒が中庭に集まっていた。小さなテントを張って、饅頭が販売されていた。


『アンパンマンじゅう。十円。』と格安である。それを販売していたかわいい女子。お団子をふたつ頭に乗せている。小さな饅頭のように真ん丸で鳶色の瞳。少し幼く見える女子高生。
集まる女子はすべてデヴィ。その中で、お団子女子だけがひとりだけ痩せている。


「あの子が饅頭人だな。」


「あの子にキッシンジャーは禁止よ。」


「どうしてだよ。そうしないと饅頭人かどうか、わからないだろう。」


「そ、それはそうだけど。キッシンジャーにはしてはいけない場面があるのよ。」


「それはどういうものだ?」


「そ、そんな説明は大悟にする必要はないわ。必要は発明のハッカドールだからいらないのよ。」


「そのネタはすごくわかりにくいぞ。」
大悟たちにはキッシンジャーしなくても饅頭人とわかったが、あまりの美少女で、楡浬は反対したのである。


「キッシンジャーモードだ!」
 大悟はお団子女子の元に走り、お約束のキス展開をしようとした。しかし、彼女はキスには抵抗で、大悟のなすがままであった。これまでと違う感覚に、大悟はキスをせずに、お団子女子からすぐに離れた。


「暴れない女子って珍しいわね。饅頭の売り子で疲れていたのかしら。」
 楡浬も拍子抜けして、右手を頬に当てて、頭を捻っている。


 お団子女子は、着けていたエプロンを直しながら、大悟を見て口を開いた。
「あたしはもともと、非モテ子なんだよ。商店街の団子屋の娘さ。親からの言い付けで、小さい頃からこの団子をしていたんだ。これが団子屋の宣伝になるってさ。それで、団子屋の団子娘としてずっとバカにされていたよ。あたしがブスだからんだよね。そして饅頭人に食われたんだよ。で、饅頭人にもなってしまったし、アンパンマンじゅうを女子に食わせてデヴィ生徒にしてモテなくしようとしたのさ。」 
これはまさに本能的な仕業である。饅頭人に喰われると理性が失われ本能が表面化する。


 大悟はお団子女子に対して、しっかり目を見て話しかけた。
「お前はすごくかわいいなあ。」
 大悟はノスタルジーにハマるしか生きがいのない年寄のように、しみじみと語った。


「またかわいいとか言ってデレデレしちゃって。鼻の下が伸び過ぎて広い壁になり、スカッシュができるわよ。」


「そうじゃない。かわいいって言ったのは楡浬に対してだ。」
声を出して、しまったという顔の大悟。


「バ、バカじゃないの!そんなこと言われてアタシが喜ぶとでも思ってるの。・・・。」
楡浬は後ろを向いて、空気に向かって、しゃべっていた。緩んだ頬を大悟に見せることができなかったからだ。


大悟は改めてお団子少女に向かって、
「お前はシコメだ。」


「やっぱりそうなんだ。あたしはブサイクルヒットだね。く、悔しい。もっとみんなを醜くしてやる。あたしが目立たないように。ダイエットしたって元に戻らないくらい。ライ●ップが売れなくて泣いちゃうようにしてやる!」


「オレの話をよく聞け。お前が醜いというのは外見のことではないぞ。他人を妬む心のことだ。周りの人をアンパンマンじゅうで、醜くすることはない。ほかの女子を傷つけようとする気持ちがある限り、お前は永遠にブサイクルヒットを打ち続けるぞ。」


大悟は手鏡を取り出した。
「自分の顔をよく視ろ。お前はどこから見ても十人前の美少女だ。そのきれいな鳶色の瞳、スーッと通った形のよい鼻筋、ガラスのように透き通った肌、頬。どれを取っても圧倒的な美少女だ。そこにいる楡浬といい勝負だ。」


「ちょっとどうしてアタシを引き合いに出すのよ。無礼千万、ブレーカーが飛ぶわよ。」


「ツッコミできないオヤジギャグを飛ばすんじゃねえ。事実を述べたまでだ。お前を見てオレの心の平原には花が咲いてるんだよ。恥ずかしいことを言わせるな。」


「聞いてる方が恥ずかしいわ。」
楡浬は再び空気に物言いモードへチェンジ。楡浬が大悟に背を向けた瞬間に、大悟はデパートの初売りで福袋を強欲に狙うオバサンのように、お団子少女に猛ダッシュして、ソッコーでキッシンジャーを決めた。
お団子少女はすぐに饅頭人の姿を晒した。


「楡浬、いまだ!オンブズマン、行くぞ!」
大慌てで大悟の背中に湯たんぽと共々乗って、楡浬は発熱。饅頭人は瞬時に消滅した。


「ありがとう。」というセリフが残像して、大悟の目に宿ったが露のように消えた。
大悟は自分が楡浬に言ったことを反芻して、我に帰り、楡浬と目を合わせることができなくなった。
結局、家への帰り道はふたりとも沈黙の石地蔵と化していた。

 
 それから数日後、協会からの連絡で現場の女子校に急行した大悟と楡浬の前にいたのは、ケンカしているふたりの女子高生。ひとりは小柄、もうひとりは普通くらいの背丈。


とりあえず、めんどくさそうだったので、そのふたりを避けて、他の女子高生を手当たり次第にキッシンジャーしたが、いずれも食われていない人間で、大悟は『このドヘンタイ!』とキスした女子高生にぶったたかれている。これがあるので、楡浬は必要以上に大悟を責めていないのである。散々顔をひっぱたかれて、腐ったトマトのように腫れ上がった大悟が楡浬に目を合わせた。