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90過ぎの銀行強盗

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「銀行強盗?」
「はい、マンハッタンの86丁目のモートン銀行で」
「で、犯人は?」
「捕まりました」
「どうやって?」
「お金を持った犯人が、銀行の出口の段差で足を踏み外し転倒、あばら骨を強く打った模様でしばらく動けず……」
「それって、またあの爺さんか!」
 80過ぎた老人の銀行強盗にビリー警部はきき覚えがあった。きっとあの常習犯のマシューのことだ。取り調べ室にビリーは行くと、そこには案の定、老人マシューがいた。
 強盗未遂でもう何度も捕まっているが、常習犯の罪は重い。法廷がマシューに懲役10年の刑を与えた。
 
 そして10年が経った。
 
 マシューは晴れて、かたぎの世界に戻り、心を入れかえ、残りわずかの余生を送ることになるはずだった。

 数か月が経ち、ある日の夕方、ビリー警部がマンハッタンの街をパトロール中に銀行前から、叫び声が聴こえた。
「キャー銀行強盗」
 ビリー警部が駆けつけると、そこには杖を突きながらゆっくり車の方へ歩く老人がいた。
手には明らかに警部には分かるモデルガンを持っている。常習犯マシューだ。
 ビリー警部はすぐさまマシューが車にたどり着く前に、マシューを捕まえた。
「おい爺さん、現行犯逮捕だ。どういうつもりだ。あんた分かってんのか?もう次はないぞ。懲役20年はくだらないぞ。あんた90のジジイだろ」
「うるさい。俺を捕まえたいんだろ。でも俺は銀行に恨みがある。何としても銀行強盗を成し遂げたかった」
 ビリー警部は黙った。
「どうした?俺をブタ箱に入れるんだろ?」マシューが言うと、ビリー警部は、
「こんなやりとりもこれで最後だぞ。あんたブタ箱から出れる頃にはもうこの世界にいない。分かってんのか?」
 マシューはしばらく黙った。
「最後に奢らせてくれ。マディソン街のカクテルバーだ。そこで一杯だけ飲みたい。飲んだら素直に警察の御縄になる。この老いぼれの最後のわがままだ。頼む、訊いてくれ」
 ビリー警部は黙った。
 老人のマシューは年輪を重ねた、深い皺が顔中にあった。不思議だがその眼は透き通っていた。
 そのとき、ビリーのPフォンが鳴った。
「今そっちで銀行強盗があったろ?銀行から緊急コールがあった」
「ああ、今犯人を捕まえた。だが、余罪があると思われ、現場で質疑を今すぐして、少し時間がかかるが、そっちへ同行する。少し時間をくれ」
 ビリー警部はPフォンを切り、マシューに言った。
「分かった。爺さん。少しだけ付き合おう」
作品名:90過ぎの銀行強盗 作家名:松橋健一