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遅くない、スタートライン 第3章

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第3章(4)

俺はその生徒の名をクリックして、課題作品を読んだ。他の生徒もいい作品を書いていた。だが…樹さんが書いた作品に心が魅入られていた。何気ない文章なのに、樹さんが書いた文章が心の中にドンドン入ってくる。まだ荒いところがあるが、アドバイスをしたらこの人はもっと伸びるよ。だから、作家ダチは学校長の許可をもらって俺に送ってきたんだ。また、副校長からも添削指導の依頼メールも来ていた。俺は先に他の生徒の添削をし、樹さんの提出作品は繰り返し何回も読み添削した。またこの添削指導を直に樹さんにしたいと思った。

数日後の養成スクールの講座に出た俺は、教室を見回した。あれ…いないぞ…樹さん!いつもなら、前から3番目に座ってるはずだが、空席だった。俺は他の生徒の顔を見た…樹さんと仲の良い女子の顔を見た。
「あぁ…樹さんですか?MASATO先生」と答えてくれた。
「うん、ほら先週の課題の添削ができたから…持ってきたんだ」俺は作品の入った封筒を生徒に見せた。

「あぁ…樹さんいつもなら来てるんだけど、いつだっけ?」横の女子が隣の女子に聞いた。
「えっと…先週の月曜日から2週間ほど休むって。カフェもお休みするって」
「えぇ…2週間もか!ご旅行かな?」俺は生徒に聞いてみた。
「いえ…旅行じゃないと言ってましたよ。みっひー(樹さん…クラスメイトにはみっひーと呼ばれてるそうだ)いい機会だから、全部ひっくるめて片づけてくるぅ。お土産買ってくるよって言ってました。どこ行ったかは知りません」
「そうなんだ…」俺はちょっと…いやちょっとどころか、かなりガックリした。

そんな俺を見た、副校長・愛先生(養成スクールに来ていた)は見かねて、俺の頭をナデナデしてくれた。
「カフェにもね…休ませてください。ってお話あったの…一応休み届出してもらって」
「養成スクールにも休み届出したよ。一身上の都合で申し訳ございません…って、用事が済んだら早くでてくるそうだよ」
「そうすッか…今日逢ったら、上のクラスの打診とガチで樹さんと話ししようと思ってましたんで、気が抜けた」
俺はデスクの上に、頭をつけてしまった。

それから数日後…俺は偶然に樹さんと出逢ったんだ。俺は出版社の編集者と都心のホテルで打ち合わせをした帰りだった。最近は車ばかりで、公共機関に乗ることが少なくなり、自宅までどうやって帰ろうかと、地下鉄の路線図を見ていた。その時だった…俺の横で小柄な女性が同じように路線図を見ていた。また面白いことに…俺とその女性は同時につぶやいた。
「えっとぉ…」この声に俺と小柄な女性は顔を見合わせた。

「い、樹さん」
「ま、MASATO先生」この偶然には二人とも驚いた。

俺と樹さんはどうやら帰る方向が一緒みたいで、同じホームにいた。樹さんはトランクを片手に引き、大きめの手提げ袋を2個も持っていた。俺は樹さんのトランクをキャリーで引いていた。小柄な樹さんにはキツイよ…大荷物は!
「すっごい荷物だね。今帰り?」
「はい…神戸に行ってました。思ったより早く片付いて、予定短縮して新幹線で帰ってきました」
「そうなんだ…この前さ養成スクールに行ったら、樹さんが休み届だしてるって聞いたからさ」
「えぇ…なかなか動き出せなくて、いや手をつけようとしなくて。またMASATO先生の言葉を借りますけど、自分で動かなきゃ何にも前に進まないよで、勇気を出して行ってきました」と言って、樹さんは少し赤くなりながら、俺に微笑んでくれた。