遅くない、スタートライン 第3章
第3章(2)
俺はカフェスクールのドアの前にいた。ここのカフェスクール初めて入るんだけどさ、入っていいんだろうか?
ガラス越しに、生徒がエプロンをつけ頭にバンダナを巻いて、コーヒーのドリップをしているのが見えた。俺は無類のコーヒー好きで、いいコーヒーの匂いをかぐと、無性にそのコーヒーが飲みたくなるんだ。ガラス越しなのに、俺は鼻を動かしコーヒーの匂いを堪能していた。
「あのぉ…すみません。」と後ろから声をかけられた。
「ん?」俺は後ろを振り向いた。小柄な女性はなんと…樹さんだった。
眼鏡をかけた小柄な女性が、両手に荷物を抱えて突っ立ていた。あぁ…俺じゃまだよな!
「す、すみません。あぁ…あれ?樹さん」
「……あ!MASATO先生!どーしたんですか?こんなところで」樹さんも俺同様驚いていた。
「い、いやぁ…1Fにカフェスクールができたっていうから、覗きに来たんだ」
(っていうのはウソ!樹さん見に来たって言えるか?本人の目の前でさ)
「そうなんですか?あぁ…ドア開けてもらえません?使っちゃって悪いですけど」
俺は教室のドアを開けた。樹さんが俺に目線でうなづいた。先に入ってくださいか?俺は先にドアを開けて入り、樹さんが教室に入りやすいようにドアを手で押さえた。
「ありがとうございます!愛先生!MASATO先生がカフェスクールをご見学したいそうですよ」
奥にいる学校長の娘さん 愛姉に声をかけた(俺は昔から知ってるから、愛さんを愛姉と呼んだ)
愛姉こと愛先生は俺の顔を見て、ニコッと笑った。ニコッと笑うほど怖いんだ。この人…
「あっらぁ…MASATO先生ことマサ坊じゃないの。どーったの?ネタ切れで情報収集ですか?わざわざカフェスクールまで足を運んで」
(ッゲェ…相変わらずだよ。この愛姉!ここで反論したら3倍になって返ってくるからな。ここは大人の態度で)
「……大人の男をマサ坊とはやめていただけませんか?愛先生!情報収集なんてとんでもない。純粋にカフェスクールの見学に来たんですよ。俺が無類のコーヒー好きだって知ってるでしょう。愛先生」とにこやかに言ってやった。
「はいはい!そー聞いときましょう。あ!この人…私の舎弟!見学だけどこき使っていいわ。ただでコーヒー飲みに来たみたいだから」
その声に生徒達は大笑いだ。あ…樹さんも笑ってる。眼鏡姿初めて見たけど、眼鏡かけると幼く見えるな。
「では、ドリップするときに先ほどの注意に気をつけてしてみてぇ!お菓子係さん…ホイップの用意して」
生徒達はカウンターで調理をし始めた。いい匂いだぁ…コーヒーとオーブンから甘い匂いがミックスして、俺はまた鼻で匂いを堪能した。
「MASATO先生…お鼻で堪能するタイプですか?」横から声がした。その声は樹さんだった。
「はい…鼻で堪能し眼で見て楽しみ、口で味わうです。あ…人間の基本的ですね」
「ですね!私もですよぉん…じゃどうぞ。愛先生からワガママだから1番に堪能させてやって、あ、失礼しました」
樹さんは、口元で手を押さえて笑った。眼鏡の奥の瞳は、養成スクールで見たことがない瞳だった。俺はその瞳を見て一瞬…フリーズしてしまった。俺より年上だけど…かわいく見える樹さんだった。
「美味かった!シフォンケーキの上はスタンダードはホイップかと思ってたけど、いやいや…和風もいけますね。コーヒーも濃いのよりアメリカンとは、絶妙な取り合わせです。マジ美味かったです!みなさんごちそうさまでした」俺は食器の前で手を合わせて頭を下げた。
それがウケたのか、生徒達から笑い声が上がった。
「はいはい…MASATO先生からお褒めの言葉頂いて良かったわね。そのメニュー考えたのは、樹さんよ。うちのスクールは生徒がメニューを考えてみんなで材料調達、作ってるの。スタートから最後まで生徒がするの…私達講師陣はアドバイスや注意するだけよ」と愛先生が言った。
その顔が何だか…誇らしげに見えた俺だ。
カフェスクールの講義が終わった。俺はごちそうになったお礼に愛先生を食事に誘った。聞きたいこともあったし…
作品名:遅くない、スタートライン 第3章 作家名:楓 美風