遅くない、スタートライン 第3章
第3章(1)
俺こと…MASATOはこの頃物思いにふけっていた。物思いの原因は、それは養成スクールの生徒に課題として、講義の度に文章を書かせている原稿用紙を見てからだ。1クラス15人程度の小クラス制なのだが、個人個人いい文章を書く生徒もいた。中には失礼だが、文才がない生徒もいた。出だしの文章をかっこよく書いてしまうと、中盤で力尽き終盤までに書ききれない生徒もいる。中盤でおぉっと思えば終盤で、これはなんじゃ?と思う文章もある。ま、人それぞれ感性も価値観も違うから、この文章が正しい書き方とは言い切れない。俺だって、生徒の頃は書きなぐって、出だしと結末がちぐはぐになったことは一杯ある。課題とは違うこと書いて、今の学校長や副校長によく怒られたもんさ。
あぁ…脱線してしまった。違う違う!
俺が物思いにふけってる原因だ!一人の生徒が他の生徒とは全く違うんだ。生徒にも年齢層があって、同じ年齢層だと文章にも共通点があり、読み手も同感することがある。この一人の生徒とは、俺が【お弁当の人】と言った 樹 美裕さんだ。見ため若そうに見えるんだけど、アラサー女子前半だった。自分で手作りして公園でお弁当を食べてる人だ。同じ年代の生徒もいるが、樹さんは雰囲気も書く文章も違ってた。いや文章がヘタとか上手とかのレベルじゃないんだ。樹さんの文章は、難しい文章を書いてるのではなく、ありのまま?素直な気持ち?樹さんが言いたい事が、読み手の心にダイレクトに入ってくるんだ。俺…こんな文章書く人は出会ったことがなかった。作家の大先生とか、有名な賞を取ったすんごい先生でも、読み手によっては【何書いてるかわからん?】ってことあるぜ。
俺は生徒の原稿用紙を、教員室のデスクに並べてみた。樹さんの原稿と他の生徒の原稿を見比べてみた。しばらく見ていた…
「あぁ…この人すごく読みやすい字を書くんだ。今の生徒ってキーボード慣れしてるから、実際に字を書かしたら誤字脱字アリアリだ。この年代にしたら珍しいよな?」俺はつぶやいたけど、その声は教員室に響き渡っていた。
その時だった。副校長室から出てきて俺にこう言った。
「そうだよ!樹さんだろ?俺も彼女の課題を何度か採点したけど、他の生徒とちょっと違うんだ。何気ない文章だけどね。結構ココロ掴まれちゃったよ。彼女は身近な題材が得意みたいだ。自分でも難しい文章は書けませんからって言ってた」
副校長が俺に、生徒別のファイルを手渡した。
「副校長もそう思うんですね。彼女…何者だ?これ履歴も書いてるんですか?」
「個人情報はナイけど、学生時代から作文書くのが好きだったと!彼女的には、ここでエッセイや紀行文の勉強がしたくて入学したそうだ」
「へぇ…エッセイかぁ。いいなぁ…彼女!上のスクールの打診しました?」
「あぁ…まだ。彼女さ…ここの養成スクールの他に1Fのカフェスクールにも通ってるんだ」
「カフェスクール?」
「うん。将来的にカフェ経営したいって。そんな甘いモノじゃないけど、カフェについても勉強したいそうだ」
「そっかぁ!あぁ…カフェと言えば学校長の」俺はニタッと笑った。
「カラかったら、昔みたいにバインダーで叩かれるよ。MASATO先生」
「はーい。お嬢様の愛さんに言葉を気をつけます」
俺はバックに原稿用紙を入れ、教員室を出て行った。
作品名:遅くない、スタートライン 第3章 作家名:楓 美風