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昭和の子

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くらし


 智子は、母親について買い物に行くのが楽しみだった。
 夕方になると近所の母親たちはそれぞれ、買い物籠を肘に下げて商店街へ向かう。その日の食べる分を買うので毎日の光景だ。
 まだ、スーパーなどはなく、すべて対面販売。買った物は新聞紙に包まれて買い物籠の中へ。
 店先で焼き鳥を焼いている店があり、そこで熱々の焼き鳥を一串買ってもらって食べるのだが、家で食べるよりなぜかおいしかった。
 その商店街では、七のつく日に縁日が行われていた。夜になると狭い道に露店が並び、町の人でにぎわった。
 智子もたまに連れて行ってもらったが、お目当ては、綿あめやヨーヨー、金魚すくいなどのおなじみのものではなかった。それは、少女雑誌の付録で、並べられているものから、好きな物を選んで買うことができた。
 
 当時の三種の神器、この話を今の若い人にしたら、いつの時代の話? と言われそうだが……
 まずはテレビ、もちろん白黒でダイヤル式、細い四本足がついていた。頭にはアンテナが乗っていて、その場所や向きで映りを調整する。カラーテレビに変わった時と、リモコンができた時は、画期的だと思ったものである。
 次に冷蔵庫。智子の記憶にある最初の冷蔵庫は、二段式で、上は冷凍庫ならぬ氷入れ場だ。
 氷屋さんが氷を売りに来て、のこぎりで大きく切り分ける。それを買って冷蔵庫の上段に入れ、それで食品を冷やしていたのだろうが、どれくらいその氷は溶けなかったのだろう? 今考えると不思議だ。
 そして、洗濯機。わきにハンドルがついていて、それに洗った洗濯物を噛ませてくるくる回す。すると、ぺっちゃんこになった服が反対側に出てくる、つまり絞り機というわけだ。脱水機が登場するまでは、ひたすらハンドルを回し続けた。
 
 でも、智子が家に来た日を忘れられないほど感激した家電は、何と言っても電話だ。
 それまでは、隣の家が小さな町工場をやっていたので、その家のおばさんが、電話があると呼びに来てくれていた。つまり、隣の家の電話番号を(呼)とつけて人に教えていたのだ。隣のおばさんもさぞ面倒だったことだろう。
 でも当時、(呼)というのをよく目にした。普通の家庭で電話をひくというのはそれほど大変なことだったらしい。何でも債権というものを買わなければならないとか、親が嘆いていた。こうして、ようやくわが家にもやってきた黒電話だが、それは廊下に置かれ、狭い家のこと、話の内容は家族に筒抜け、とても使い勝手の悪いものだった。
 ひとり一台、それもポケットに入るような小さな携帯電話、小学生までもがそんな電話を持つ時代が来るなど、誰が想像できただろう? きっと江戸時代の人が、飛行機で旅行ができるようになるなんて……と同じくらいの驚きに違いない。
 
作品名:昭和の子 作家名:鏡湖