昭和の子
終章
智子の退院する日が来た。
昔のことを振り返ってみて、しみじみ思う。
清潔で便利な世の中となり、これからも文明の進化は続いていくことだろう。でも、汚れた服で思いっきり外を駆け回る子どもらしい笑顔が、見られなくなるのではないだろうか? 個人情報という柵の中で、人と関わりを持つことが少なくなっていくのではないだろうか? それで本当に幸せな時代に向かっているのだろうか?
その時代の暮らしを後世に語り継ぎ、より良き時代へと導くよう先人たちは願ったに違いない。自分も後に続く人たちへ心を馳せる年代を迎えた。
平成に育った人たちも、いずれは今の暮らしを次の世代へと語り継ぐ番がやって来る。それを繰り返し、時代は過ぎて行く。昭和の時代はもう歴史のページの中に埋もれ始めているのかもしれない……
入院という非日常の空間が、こんな感傷的な気持ちを駆り立てたのだろう、そう思いながら智子は病院を後にした。
終