晴天の傘 雨天の日傘
二人は雨の通りを並んで歩き出した。すると一歩、二歩と進むに連れて雨は次第に弱くなり、駅が見えるくらいのところまでたどり着く頃にはほとんど雨が止んでいた。往来の人もちらほらと傘を閉じる姿が目に入る。
実雨の持つ日傘は、持っているだけで雨が降る。ただし、一度でも広げるとその効果はなくなってしまう――。日光アレルギーで且つ晴れ女の実雨にとってはこの上ない傘であるが、ここは使うべきところ。雨の空に日傘を差すと空は次第に明るさを取り戻しはじめるのを見て、実雨は改めてこの傘の効果に驚き、これまでの役目に心でお礼を言った。
横には先輩の快晴が差した傘に入っている。ラインバッカーとして活躍してただけに体格はかなりしっかりしていて、肩が傘に入りきらない。でも、一歩歩くごとにその心配はないような空模様に変わっていくのに驚いた顔を内に見せて時おり空を眺めていた――。
「ほら、雨――上がりそうですよ」
実雨は快晴がこちらを向いたのに気づき彼に声を掛けた。駅に近づく頃にはさっきまで降っていた雨が上がった。それだけなのに不思議な表情の快晴に少し戸惑いながら、降っていない、晴れてもいない観戦日和になりそうな空の展開に笑みで返して見せた。
「本当だ」快晴は手を傘の外に出してみて、濡れていないことを確かめた「こんな不思議なこともあるんだな」
快晴は実雨の傘から半歩外に出た。もう濡れる心配はない。
「天野さんは魔法使いみたいだ」
「そんな、大袈裟ですよ」
実雨は傘から出た快晴を見て、傘を両手で持って一人駅舎の前でたたずんだ。
「雨が上がったのなら、傘は差さなくてもいいんじゃあ?」
「先輩、これは日傘ですよ。私、日光アレルギーなんです」
「ははは、そうだったね」
実雨が手を口に当てて笑うと、快晴も腕組みをしてつられて微笑んだ――。
「さあ、ちょうどいい時間だし、いこうか」
「ええ――」
晴れの日にだって良いことが、ある。
実雨は胸の内の気持ちを躍らせながら、二人並んで駅の構内に入った――。
後編 ~雨天の日傘~ おわり
作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔