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晴天の傘 雨天の日傘

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 朝夕が寒くなりはじめた秋の日曜の朝、三猿堂の前の通りは大小様々の車が行き交い、並んだ店は虫食いの答案を埋めるように一つ、また一つとシャッターが開いては閑散な街並みを徐々に彩って行く。

 店主が店先の歩道で、どこからかやって来た落ち葉をホウキでかき集めていると、道路を挟んだ向こうで一組のカップルが歩いているのが見えた。
 さほど強くない陽射しの日に、女性は日傘を差して、体格の良い男性と並んで歩いて談笑している。

「いやあ、良かったですね」

 店主は通りに立ったまま目で二人の進行方向を見守っていると、店の中からぶちの猫がやって来て店主の足にまとわりついた。
「いい天気というのもが人それぞれで面白いですね」
と店主が呟くと通りを抜けるように速い風がビュンと通り抜け、足下でまったりしようと思っていたぶちは驚いて店内に戻っていった――。

「さあ、今日はどんなお客様がいらっしゃるでしょう……」
 店主はちり取りに集めた落ち葉をまとめると電柱の脇に支えられるようにして立っている、へしゃげたゴミ箱にそれを入れ、ピンとした背筋で歩いて店内に入った――。

   * * *

 この街が「街」と言われる前からあった、小さな商店。名前は「三猿堂」――。
 
 町にあるということは確かなのだが、なぜか店までの道順を知っている人は、いない。ここに来れば丁寧な老紳士がその人にあった商品を誂えてくれるそうですよ――。
 三猿堂へ行ったことがある人はこのお店の店内にこう言われるそうです。

「お困りのことがあればお越しください。ここが見つからない時もありますが、それはあなたが幸せであるということです。なので、心配なさらずに――」

 今日も街は多くの往来がある。ほとんどの人はこの店の前を気付かずに通りすぎて行った――。

  晴天の傘、雨天の日傘、  おわり


 お困りのことがございましたら、是非三猿堂までお越しください。

   それでは、また――。

作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔