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晴天の傘 雨天の日傘

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五 雨の日は



 あれから半月が経った日曜日、実雨は電車に乗って街に向かっていた。目的地はスタジアム。友人の彼氏が試合に出るから一緒に観戦に行こうと誘われたからだ。憧れていた「レインバッカー」は昨年卒業したが、観戦そのものが好きだったから実雨は友人の誘いに乗ってスタジアムに向かった。
 ただ、夏は終わったとはいえまだまだ陽射しが厳しい季節、ゲームをする選手には申し訳ないと思いつつ、実雨は「三猿堂」で買った日傘を持って家を出ると、街に近づくにつれ予想通り雲行きが怪しくななってきた――。

 乗り換えの駅に近づく途中で、カバンに入れていた電話のバイブが震えると、実雨は周囲を気にしながらカバンに手を当てるとバイブの震えが止まった。メールが来たと判断して画面を開けてみると確かにメールが届いている。実雨はそれを開いてみると、思わず声が漏れた――。

  「なんかね、ウチの彼氏が昨日ケガした
   みたいで今日は出ないらしいのよ。
   だから今日は行かないわ」

「ええ?ここにきてドタキャン?こっちはもう電車乗ってるよ」
 実雨は相変わらずの友人のマイペースに呆れた顔を車窓の外に向けた。そんな実雨の気持ちは無視して、電車は時間通りに雨雲をかぶった街の方向へ走っていった――。

   * * *

 予定より早く駅に着いたのは、乗り換えるまでに買い物をしようと考えていたからだったのだが、この先にあるスタジアムに行く理由の一つがなくなってしまった。このまま一人で観戦に行ってもよいが、それでは何かが足りない。
「どうしよっかなあ……」
 実雨は天を仰いだ。雲は厚く、雨が降っている。手首に引っ掛けたこの天気には場違いな日傘を見て実雨はクスッと微笑むと、ひとまず出来た時間をどうしようかと考えながらある場所へ向かうことを決めた。 

 雨を避けつつ街の雰囲気を見ながら歩いたその先に、いつもの目的地が見えてきた。実雨は足を止めてビルの並ぶ通りの途中で目線を上にあげた。
「ああ、やってるやってる」
 3階の看板に書いてあるのはひらがな五文字の「あまやどり」、実雨はそこでしばしの休憩を取りつつこれからの予定を落ち着いて考えることに決めた。

作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔