晴天の傘 雨天の日傘
実雨は家に帰り着くと、机の書棚に並んだ一冊の本を取り出した。
雨とサッカー観戦が繋がると、どうしても快晴のことがリンクしてしまう。
高校悲願のインターハイ、憧れの先輩は雨の中健闘するも逆サイドで勝負され敗退した。実雨の目には不完全燃焼と見えたが、それから彼は高校を出てからサッカーを辞めたという噂を聞いた。
しかし、ひょんなことから彼のその後を見つけることになった。取り出したその本は、実雨の通う大学のアメフト部が発行した去年のイヤーブック。快晴はこの中にしっかり掲載されていたのだ――。
* * *
大学に進学した1年目、友人が熱をあげていた相手がアメフト部員のホープで道連れとして一緒に観戦に行く機会が増えた頃だった。
試合を見に行くにつれて、サッカーとはまた違った楽しみ方があるのを知り、いつしか追っかけの付き添いではなく自分から好んで観戦するようになった。そんな中のビッグゲームで雨の日に一際力強いタックルを決めるラインバッカーが目に止まった。泥臭いタックル、機敏な反応。ラインどうしが組み合う中を掻き分けて決めるブリッツ――。
雨の中に光るものと、懐かしいものが見えた。
「あれ、岸先輩だよ!」
「え?そうなの?」
友人がロスター(選手一覧)の12番を指差して実雨に見せた。実雨もスタジアムの入り口でもらったロスターを見ると確かに12番のラインバッカーのところに「岸 快晴」と書いている。
「本当だ……」
次のプレイ、3rdダウンロング。苦し紛れにパスを投げようとしたクォーターバックはラインのタックルを受けてボールをこぼし、それを拾い上げた12番の快晴がエンドゾーンまで全力疾走すると、スタジアムは総立ちになった。
「競技は違うけど、スタイルは同じだ……」
実雨は心の中で呟いた。いつしか実雨はサッカーでもなく、アメフトでもなく、背番号12のラインバッカーそのものに興味を持つようになっていた――。
* * *
実雨が広げたページには快晴のプロフィールが載っている。
「ビッグゲームでは雨を降らす
付いた異名はレインバッカー」
とチームメイトに紹介されている。
確かに観戦に行ったときは雨が多かった。実雨はそんな快晴の顔写真を見てくすりと微笑むと、本を閉じて元の棚に戻した――。
作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔