晴天の傘 雨天の日傘
「効果が無くなる、ですか?」
「左様です」
美雨は言葉の意味が全く理解できないながら質問を続けるが、やっぱり理解ができず頭が混乱しそうになった。
「効果というのはどういう意味ですか?」
「この日傘は、持って外に出ると雨が降るのです」
「え?どういうこと?」
美雨は全く予想をしていなかった答えにわけがわからなくなった。
店主は自分の発した言葉になんの迷いも見せずに優しげな目で美雨を見つめている。
「『この日傘は、持って外に出ると雨が降る』と言ったのです」
同じ説明が繰り返された。内容は理解できたが「効果」の意味がまだ引っ掛かる。
「それじゃあ、『日傘』の意味ってないんじゃあ――」
「そうでしょうか」店主は小さく肩を揺らして笑った「日傘は日射しを避けるものですから、持っていると意味がおありと私は思うのですが」
店主の言うことに間違っているところはない。確かに雨が降れば日傘は必要がない。夕方前とはいえ外の陽射しはまだ強い。本当にこの日傘があれば雨が降るのだろうかと半信半疑で手にした傘を見つめた。
「では、その傘を持って表へ出てみてはいかがでしょうか」
外れた視線の位置から店主が提案をすると、実雨はふと店主の顔を見た。優しい顔でしっかりと一度頷くのを見て実雨は断ることができず、恐る恐る日傘を持ったまま店外に出てみた。
その瞬間、実雨の思考回路はまた停止した――。
「嘘だ……」
美雨は言葉を失って口が開いたまま三猿堂の店の前に立ち尽くした。傘を持って店の外に出た途端に、空が急に曇りだしたのだ。急な天候の変化に戸惑う往来、そして間もなくして美雨の頬に雨がかかる感覚がし、においを感じると慌てて店内に戻った。
「どうでしたか?」
「これ、ください」
実雨は迷わなかった。財布に残っていたお金を正直に話すと店主は微笑んで、
「そんな、高価なものではありませんよ」
と答え、見積りには全く満たない額でその日傘を手に入れた。
作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔