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晴天の傘 雨天の日傘

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「いらっしゃいませ――」

 店内に入ると、カウンターから実雨を歓迎するしぶい声が聞こえた。そこに立つ男性は、年は還暦を過ぎたくらいだろうか。頭髪は真っ白で、背筋がピンとして、着こなしもしっかりしていて「老紳士」という単語がマッチしていて、若い頃はかなりカッコよかったと思うのは実雨だけではないだろう。
「何を、お探しですか」
「え……と。特に決めてなかったんですけど、お店の雰囲気が素敵で」
「そうですか、ありがとうございます」
 店主は静かで上品な笑みを見せて深くお礼をした。実雨は店内を見回すと商店として日用品から装飾品まで、いつしかの海外で見た片田舎の商店のようだ。そして、どの商店もきれいに並べられていて埃一つ付いていないことに店主の潜在的なセンスが感じられる。

「あの――」
「日傘など、いかがでしょうか?」 
 実雨はハッとして店主の顔を見た。自分が質問をする前に、店主の方から問い掛けてきたからだ。
 確かに実雨は日傘はあるかと聞こうと思った。彼は心を読めるのだろうか?それにしても、様子を見ただけで欲しいものを言い当てる店主のセンスに、実雨は彼に対し感心して思わずこくりと頷いた。

「それでは、こんなのはいかがでしょうか?」
 店主は窓際に陳列していた数本並んだ日傘と、実雨の全身を見てその中から一本を選び丁寧に両手に持って実雨の前に立った。
「わあ、オシャレ」
 美雨は店主の薦めた黒い日傘を手に取った。しっかりした厚目の布地に縁には薄紫の刺繍が入っている。木でできた柄も藤で編み込まれていて、持っているだけでもうきうきしそうなものだ。

 ただ、高校生の美雨にとっては同時にちょっと値が張るかと心配もした。
「広げてみて、いいですか?」
実雨が質問すると、店主はさっきまでとは明らかに違う、半拍遅れたテンポで答えた。
「いえ。その傘は一度広げてしまうと効果が無くなってしまうのです」
「えっ?」
 美雨は店主の言葉にはっとして手はおろか、頭の動きも止まった。

作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔