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晴天の傘 雨天の日傘

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「いらっしゃいませ――」
 カウベルの音に混じってカウンターの向こうからマスターの声が聞こえた。

「あの――、これ」
「ああ!すみませんね、ありがとうございました」マスターは店に来たのが実雨と分かった途端、手を止めて入り口まで早足で彼女の元まで寄ってきた「お陰で今日は助かりましたよ」

 マスターはそう言いながら、レジの横に引っ掛けていた黒い日傘を実雨に手渡した。
「いえいえ、お役にたったのでしたら――」 
「お陰さまで今日はちょっと混んでいるので、手前の席でよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
「ありがとうございます。今日はお礼に特製ワッフルをお付けします」
「わあ、いいんですか?」

店の一番手前、窓には鏡文字になった「り」が書かれた窓の席を案内されて座った。

作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔