晴天の傘 雨天の日傘
二 あまやどり
友人とは海で別れることになった。勝負をかけたデートは結果上々のようで、二人は車で次のスポットへ行ってしまった。実雨は彼らが見えなくなると呆れた顔で笑みを浮かべた。結局自分は何なのよと思うのではなく、後日友人をとことんまでイジり倒してやろうと思うことで今日の癒しと考え、帰りの電車に乗り込んだ。
電車の窓から流れて見える海の風景は、西陽が当たって跳ね返り、光を散らして実雨の目に入って来る。実雨にはその光が身体に毒だ。
「私だって晴れた日に外に出たい時だって、あるよ――」
途中駅で止まると実雨はやり場のない本音を自分に漏らした。開いたままの扉から見える学校のグラウンドでサッカーの練習をしている学生に過去の自分を重ねた――。
* * *
中学の頃は将来を期待されたサッカー選手だった。実際にクラブチームからのオファーもあり、オリンピック候補とさえ言われた時期があった。
ポジションは右のウイング。ゴール前まで来たら例え男子でもドリブルで抜ける自信はあった。当時は男子に混じってプレイしても全く遜色なかったし、むしろちょうど良いレベルだったくらいだ。
しかし、高校に上がる前に身体の不具合で屋外でのスポーツができなくなった。つまりはサッカーを諦めざるを得なかったということだ。
「雨の日限定なら試合に出られるんだけどなあ……」
そんな本音を漏らしたところで毎日雨が降るわけではない。電車は通過する快速電車を見送ると、ゆっくりと扉を閉めて海から離れるように走り出した。
電車はもうすぐ乗り換えをする街の駅に着く。近づくにつれて周囲の光の量は徐々に減ってきた。陽が沈むのではない、雲が厚くなってきたのだ。
「――さ、ちょっと寄り道して帰らなきゃ」
実雨は開いた扉からピョンと跳び降りると、街の空気は雨の湿ったにおいが辺りを包んでいた――。
作品名:晴天の傘 雨天の日傘 作家名:八馬八朔