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真一君のバレンタイン

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「…もう、機嫌 直して下さいよ」

 宥める葉月さんに、真一君は仏頂面を向けました。

「バレンタインに、お揃いのマフラーをしてくれたら 許す。」

「え?」

 軽く狼狽えた葉月さんに、真一君が畳み掛けます。

「お揃いのものって憧れなんだよね~ 何故か葉月ねーちゃん、嫌がるけど。」

「ふ、2人でお揃いのものなら、もう持ってるじゃ ないですか!」

「…は?」

「私が、シンちゃんママから預かってる、家の鍵です!!」

 呆れた顔をする真一君に、葉月さんは必死で言い募りました。

「2人で、同じもの持ってますよね!?」

「そりゃ…同じじゃない 合鍵なんて、意味がないからねぇ…」

「同じものなら、お揃いです!」

「合鍵を…お揃いとは、表現しないと思うけど。」

 視線を逸らす葉月さんに、真一君が顔を近づけます。

「何でお揃いが、嫌なの?」

「…今回に限っては、主に 時間的な制約です」

「?」

「シンちゃんの分でぎりぎりなのに…バレンタインまでに、もう1本なんて、私には編めません…」

 沈黙する葉月さん。

 暫く視線を天井に向けていた真一君が、口を開きます。

「─ じゃあ、教えてくれる? 編み方。」

「へ?」

「葉月ねーちゃんの分は、僕が編むよ! ホワイトデーの前渡しって事で!!」

「そ、それは…却下です!」

否定され、真一君は表情を歪めました。

「何で?」

「わ、私のより…シンちゃんの編んだマフラーの方が出来が良かったら、困ります…」

「大丈夫! そういう事なら…葉月ねーちゃんの出来に 合わせるし。」

「…」

「あくまでも お揃いのマフラーするのが目的だから、品質なんかには 拘ら…」

 真一君の言葉は、葉月さんに遮られます。

「…シンちゃん?」

「?」

「何で…私の編んだのより、自分のマフラーの出来が良い事 前提なんですか?」

「え? だ、だって…さ、さっき……じ、自分で………」

 大きく頬を膨らませた葉月さんを見て、真一君は たじろぎました。

「残念ですが、真一さん」

「は…い」

「もう、今年のバレンタイン、あなたに何も差し上げられるものは 何も御座いません!」

 葉月さんがすっかり拗ねてしまったのを見て、真一君は途方に暮れます。。。

作品名:真一君のバレンタイン 作家名:紀之介