化粧して!
「行信」
向かい側の席に向かって、疲れた声で美姫さんが呟きます。
「ん?」
「もう…撮ってくれても良いよ? しゃ・し・ん。」
「そんな事したら、化粧、落としちゃうんでしょ?」
行信君は、ひたすら視線を逸らさず、向かいに座る美姫さんの顔を見続けていました。
「目、疲れたでしょ?」
「─ 疲れないけど」
「もう30分以上は、そんな事してると思うんだけど。。。」
「…だって、見飽きないし♡」
根負けした美姫さんが、思わず呻きます。
「自分の顔を鑑賞されるの、もう嫌なんだけど…」
「そう?」
「写真…撮って欲しいかな。」
「えー」
「と・っ・て、ほ・し・い・な!」
流石に潮時だと判断した行信君。
美姫さんの顔を見るのを止め、スマホに手を伸ばします
「承知致しました。ひ・め!」
「─ 姫って呼ぶな。」