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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 最終章

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「ねえ、おじちゃんの様子を見にいこうよ」

手を握っていたハナがいった。
東の空が白みはじめている。
権兵衛は自分がもどってこなかったら裏山から逃げろといっていた。
妙は迷った。
どう考えても五十を越える人数を相手にして無事なはずがない。
いまごろは無残に斬り捨てられているだろう。
だが、それならなぜ、虎造の乾分どもは村のなかに入ってこないのだろう。
ここから見える松明の火はいつしか消えて見えなくなっている。

「ハナのいうとおりだ。このままにしちゃおけねえ」

村のだれかがいった。

「おれたちのために戦ったんだ。せめて丁重に弔ってやろう」

他の村人も同調してうなずいている。

「お義父さん……」

妙は傍らの太兵衛をみた。
太兵衛もこくりとうなずく。

「し、しかし……」

太一郎は不満そうだ。うっかり見にいって虎造たちの待ち伏せに合うかもしれない。そういいたげに口元を歪ませている。

「太一郎はここにおれ。わしと村の者数人で様子を見にゆく」

「あたしもいきます!」

「ハナも!」

「いや、ハナは――」

「いくといったらいくの!」

ハナが太兵衛に向かって小鼻を膨らませて叫ぶ。意地でもついてゆくといわんばかりだ。

「お義父さん、なにかあったらあたしがハナを守りますから」

妙は太兵衛にそういうと太一郎をみた。

「勝手にしろ!」

それを了承と受け取って妙は歩きだした。
妙とハナ、太兵衛と村の若衆五人が静かに坂道を下ってゆく。