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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 最終章

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――どうしてこんなことになったんだ。

――おれはどこで間違えたんだ。

背後でひとが倒れる音がした。
あらためなくてもわかる。
手応えは充分にあった。
残心の剣尖から里嶋の血が滴っている。
里嶋の魂はもう、この地上にはない。

権兵衛はびゅっと血振りをくれると目の前の外道どもを睨めまわした。
人垣がさざ波のように揺れた。
そのまま、ずいっと一歩を踏み出す。

「ひいっ!」

最前列にいたマシラの喜一が真っ先に背を向けた。
刹那、喜一の首筋から噴水のように朱が噴いた。
斬ったのは権兵衛ではない。
黒鉄の虎造が袈裟懸けに喜一を斬り下ろしたのだ。

「てめえまた、親分の背中に隠れる気かい!」

「あう……あう……」

言葉にならぬうめき声をあげて喜一は絶命した。
虎造は地に伏した喜一の死体を踏んづけると、周りの乾分どもに向かって怒鳴った。

「てめえら、喜一のようになりてえかッ!」

その一言で人垣が動いた。喚き声とも怒鳴り声ともつかぬ音声を発していっせいに権兵衛に襲いかかる。

権兵衛の白刃が踊った。
縦横無尽に。
斬る。
突く。
薙ぐ。
払う。
一閃ごとに外道どもの手足が飛び、臓物がこぼれる。
血泥に足がぬかるむ。
それでも権兵衛は前に進んだ。
潅木の枝を払うかのように血塗れた白刃を打ちふるう。
いつしか河ができていた。
真っ赤な色をした河が屍山のふもとからどろどろと流れていた。