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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 最終章

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村の入り口で妙たちは信じられぬ光景をみた。
屍山血河の真ん中で二人の男が立っている。
ひとりは黒鉄の虎造。
もうひとりは権兵衛。
二人とも血まみれで、虎造は左腕の肘から先を失って荒い息を吐いている。

「おじちゃん……」

ハナがつないだ妙の手を強く握ってきた。
普段とは別人格とも思える修羅の相を権兵衛はあらわにしていた。


「くくく……ふははは……」

虎造がふいに笑いだした。血に染まった顔をほころばせて、さも愉快そうに笑い声をたてる。

「……わかったぜ。おめえの正体がよ」

「…………」

「おめえは空っぽだ。中身なんざありゃしねえ。だから戦えたんだ。空っぽのてめえをなんとかしたくて刃をふるったんだ」

「…………」

「残念だったな。ここが……死に場所に……なれなくて……」

虎造はそういうと血泡を吐いて、そのまま大地に伏した。

「……さすが虎造親分だ。わかっているじゃないか」

権兵衛は血脂に染まった刃を袖で拭うと鞘に納めた。
後ろにひとの気配がする。
振り向かなくてもわかる。
自分を異形の者として見つめている。固唾を飲む音が聞こえるようだ。
権兵衛は歩きだした。

「おじちゃん!」

ハナの声が響いてきた。

「スケベのおじちゃーん!」

振り向いてはだめだ。こんな顔をハナには見せられない。

「スケベのおじちゃん、もどってよーっ! 帰ってきてーっ!」

ふいに権兵衛の体が傾いた。不覚にも体のどこかをだれかに斬られたらしい。

「スケベのおじちゃーん!」

「名前を縮めるな……っていったろう」

苦笑とも失笑ともつかぬ表情を浮かべて権兵衛は去ってゆく。
ハナと太兵衛、そして妙の熱い視線を背中に感じながら。
空虚なる心を抱えて……。


ふうらい。〜助平権兵衛放浪記