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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 最終章

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「これから……どうするの?」

妙がいった。

「あたしたち……どうなるの?」

問を重ねた。用心棒三人組を斬ってしまったいまでは、権兵衛ひとりしかいない。たったひとりでは村を守れない。

「夜が明けて、おれが戻ってこなかったら、そのまま裏山から逃げるんだ」

権兵衛は妙の傍らをすり抜けていった。

「おじちゃん!」

妙の袖を払ってハナが声をあげた。

「帰ってくるよね! きっと帰ってくるよね!」

権兵衛はこたえない。背中を向けたまま軽く手を振って山を下りてゆく。

「ハナ……」

妙にはわかった。権兵衛はおそらく死ぬ気なのだ。



「黒鉄の虎造だ! 庄屋太兵衛、でてこい!」

庄屋屋敷の茅葺き門の前で虎造が大音声で呼ばわった。
返事はない。
屋敷にひとの気配はなく、シンとした静寂だけがある。

「どうやら逃げやがったようですぜ」

虎造に湯飲みをぶつけられ、包帯とも鉢巻きともいえぬものを頭に巻きつけたマシラの喜一がわめいた。盛んに松明をふりかざしている。早く火をつけたくてたまらぬようだ。

「いや、いる。ひとりだけ残ったようだ」

里嶋庄八郎が鍔元に手をやって前方をにらむ。

「本当だ! だれかきやす!」

喜一ではない別の乾分が声をあげる。
静かに砂利を踏む音が茅葺き門の奥から聞こえてくる。

「助平……」

月夜に眼を凝らすまでもない。足の運びから里嶋にはわかっていた。

「先生」

虎造が里嶋に目配せする。
里嶋が虎造や乾分たちの前に進み出て、やってきた助平権兵衛に対峙する。

「里嶋さん……」

権兵衛は哀しい顔をしていた。底抜けに陽気で情熱的だったかつての姿はそこにはない。

「逃げろ……といったはずだ。一命を賭してまでなぜ、この村を守る?」

「里嶋さんこそ、なぜヤクザに義理立てする。いらぬ恨みを買うだけだぜ」

松明の明かりを受けて権兵衛の瞳が燠火のように光っている。やはり、権兵衛は死ぬ覚悟を定めてこの場にきたのだ。

「……なあ、里嶋さん、おれたちはお互い負け犬じゃないか。負け犬同士、噛み合ってなんになる。ここは退いてくれ」

「おれの性分はわかっているだろう。この期に及んでヘタな説得はよせ」

「そうだな。お互い損な性分だったな」

里嶋はずい、と一歩前に進みでた。居合腰に沈む。
権兵衛も応じた。お互い居合の一閃で決着をつける。
空気が固着した。
二人の気が充満しみえない火花が散った。
刹那、二筋の光芒が交差した。