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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 最終章

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《最終章 けっぷう》




 ハナの背中を追って獣道を走り、薮の中を突っ切ってゆくと、比較的広い山道にでた。
月明かりに照らされた山道を、せかせかと早足で歩く三人組の後ろ姿がすぐそこにみえる。

「よう!」

権兵衛はわざと陽気な声をあげた。
ぎくり背中を強ばらせて用心棒たちが振り返る。

「どこへゆくんだ? 村はそっちじゃないぜ」

「な、なんだ貴公か」

塚田がおもねるように顔を歪める。

「おぬし、あの松明の列をみなかったのか?」

岩尾が青ざめた顔でいう。

「だから?」

権兵衛が先をうながした。

「どうやら、おぬしはおれたちを引き留めにきたようだな」

梶木がちらりと傍らのハナをみやって口を開いた。

「それは無駄だぞ」

「あんたら、用心棒としてカネをもらっているんだろう? ここで逃げたら泥棒だぞ」

「しゃっ、こやつ!」

顔面に朱を刷いて塚田が鍔元に手をかける。
梶木が塚田を制して権兵衛の前にでた。

「なんとでもいえ。ひとつしかない命だ、お互い大事にしようではないか」

梶木もさりげなく鍔元に手をあてている。いつでも抜ける態勢だ。

「一度しかいわぬ。村にもどれ」

「やかましい!」

ついに塚田が大刀を抜いた。つられて他の二人も白刃を抜き放つ。

「ハナ、退がっていろ」

ハナが後ろに退がり、充分な距離をとる。
権兵衛も無造作に大刀を抜き、すり足で一歩前に進みでた。

「やるか!」

塚田が剣尖を震わせてわめいた。

「先に抜いたのはおまえらだ」

ザザッと砂利を蹴立てる音がして権兵衛は三方を囲まれた。

「逃げられぬぞ。雑言、あの世で悔やむがいい」

梶木が瞳と刃を光らせてにらむ。

「悔やむのはどちらかな」

「死ねい!」

三人同時に襲いかかってきた。
塚田は上段から。
岩尾は中段の突き。
そして梶木は下段からの斬りあげ。
瞬間――
月光を跳ねあげ、権兵衛の刃が風を巻いた。
颶風のように木ノ葉が舞いあがる。
弾かれたように血煙が噴いた。
虚空に鮮やかな血の虹を描いて三人の体がゆっくりとくずおれた。
地に伏した三人の死に顔には驚愕の相が張りついている。
権兵衛は残心の構えのままつぶやいた。

「チクショウ……また斬っちまった」

背中に新たなひとの気配がして権兵衛は振り返った。

「!…………」

小袖の袂でハナの眼を覆った妙の姿がそこにあった。