家族の季節
次の日、奈津は幼稚園、赤ん坊の陸(りく)は昼寝で、葉子と理恵子は束の間の休息の時間を過ごしていた。お茶を飲みながら理恵子が聞いた。
「お義母さん、あちらの方はどうです? いい方いました?」
葉子は、ちょっと照れながら答えた。
「受け身ではダメみたいね、声をかけてくれる人は気が進まない人ばかりで。まあ私もそんな偉そうなことを言える立場ではないんだけど……」
「そんなことありませんよ。あの写真よく撮れているし、きっとお似合いの方が見つかりますよ」
入会の時、プロフィールに載せる写真を理恵子に撮ってもらった。自分でも歳より少し若く見えるかなと思ったが、年齢を明記しているのだから五十七歳には変わりない。
正月まで夫と暮らし、もう次の相手探しに向かって動き出している自分を、理恵子はどう思っているだろう? ふと葉子は気になった。死別ではないので、軽蔑されることはないだろう。理恵子たちの前で言い争ったこともなかったし、康夫が家を出ていく時もみんなとともに見送った。むしろ、離婚の原因を知りたいくらいなのではないだろうか。
そういえば、初めて直人が理恵子を家へ連れて来た時、自分は単刀直入に離婚の理由を聞いた。あの時はまさか自分がその立場になろうとは夢にも思わなかった。でもこうなってみると、ずいぶんと高圧的な態度を取ってしまったものだ、と今さらながら恥ずかしく思う。
「理恵子さんと同じで今や私もバツイチ。あの時はごめんなさいね」
「やだ、お義母さん、今さら。でも陸が生まれて、私もお母さんの気持ちがわかる気がします。二十年後、陸が突然私のような女を連れてきたら、きっと私、お義母さんと同じことを言うと思います」
嫁姑というより、女友だちのような関係でいられることを、葉子はとても幸せだと思った。やはり、年上だのバツイチだの子連れなどという世間のレッテルなど当てにならない。人柄と相性こそが大切なのだ。
「ひとり気になる人がいて、昨日思い切ってこちらからメールを送ってみたの。返事が気になって、今朝からなんだか落ち着かなくて。まるで学生時代に戻ったみたい」
「そう言えば、私もお義母さんが女子学生に見えてきました」
ふたりが笑い声をあげると、陸が目を覚まして泣き出した。休憩時間は終わりを告げた。
その夜、風呂から上がり、葉子は寝室で日課のパソコンを開いた。でも今日はいつもと違い、サイトを開くのがためらわれた。
(自分がいつも押している「ごめんなさいボタン」は相手にはどのように送られるのだろうか? きっと丁重に断りの文句が書かれているのだろう。もしその文章が飛び込んできても、気にしないでまた別の人を探そう。それが婚活というものなのだから)
深呼吸をしてから、サイトを開いた。するとメールが一通届いていた。
『葉子さん、メールありがとうございました。
私はこちらに登録したもののちょうど仕事が忙しくなり、相手を探す余裕がありませんでした。やっと手が空いて今日サイトを開いてみたら葉子さんからメールが届いていて、とてもうれしかったです。
こちらこそ、よろしくお願いいたします』
葉子は夢見心地だった。こんなことってあるのだろうか? 一発で命中するなんて! メール交換を飛び越えてすぐにでも会ってみたいと思った。