脱出ゲーム小説
ただ、ただ、何もないこの森を無意識に歩いていたんだ。
そう、何かに惹かれるようにして・・・。
無意識になると人間は下を向くらしいんだ。たぶん、僕もそうしていたんだと思う。
だけど、ふと、前を見ると何があったと思う?
森だから、樹齢がすごい木とか、巨大な湖や、崖だとかおもうだろう?
だけど、それはどれも違う。
僕が見たものは、窓のない要塞のような建物だったんだ。
僕は何が起こったのかよく理解できなかった。だって、さっきまで無意識で歩いていたんだから。
でも、何かざわめく気持ちに誘われて、僕はその扉を開けた。
・・・扉の前には誰かの落し物があったような気がする。
そのときは「何かあるな」としか思っていなかったけど、
今になってもう少し早く気づいていれば・・・・と思う。
さあ、これから僕が奇跡的に脱出したことを述べよう。
中に入ってまず気になったのは部屋の物の無さだ。
なんというか、ものすごく殺風景だった。
次に気になったのは、さっき入ってきた扉だ。
扉の閉まる音が聞こえなかったから、後ろを振り向いてみた。
すると、扉が跡形も無く消えてなくなっている!
部屋全体を見渡してもない。もちろん窓もない。
・・・完全に密室となったわけだ。この部屋は。
でも、何かあるだろうと僕は必死で棚の後ろや机の下などを探した。
やっぱり、本当にこの部屋は何もない。
そのとき思った。何もないからこそ脱出するんだ、と。
そして、さっき棚の後ろを探したときに長い棒を見つけた。
これで僕がギリギリ届かないところを探れる。
長い棒で探ってみると・・・どうやら鍵らしきものが出てきた。
たぶん、机の引き出しの鍵だろう。そう思って鍵穴に突っ込んでみた。
ガチャッ
そんな音を立てて引き出しは開いた。
中には、箱だ。箱が入っている。
どうやらパスワードが必要らしい。この部屋にきっとあるのだろう。
よし、探してみよう。そしてこの箱の中身を見よう。
それからだ。僕が調子が出てきて、箱を見つけてそれのパスワードを見つけて、理解し、入力して箱を開けたのは。
箱に入っていたのは、何かのリモコン(?)のようなものだった。
もちろん、脱出できるならと思い、すかさず押した。
すると、
ビーービーー
「報機の音だ、何処にそんなものが―――。」
そういいかけた途端、大きな音で、
『侵入者ガ脱出デキタヨウです。侵入者ハソのママ動かないデクダサイ。』
と女ロボットのような声が聞こえて、僕は背筋がゾクッとした。
・・・侵入者呼ばわりされたのにもゾクッとした。
とりあえず、ここに到着するまで時間があるだろう。その間に早く逃げないと!
でも、出入り口は何処にも――――
・・・いや、あった。一箇所だけ。
それは、換気扇の中だ。
何かのドラマでそういうシーンがあったのを覚えている。換気扇を通り、ボスとかの部屋に向かう、そういうシーンだ。
僕はこの部屋で見つけた懐中電灯と念のため、メモを持ち、そこに入っていった。
中は狭く、真っ暗で目の前すら見えないくらい暗かった。
懐中電灯を口にくわえ、前に進むと枝分かれた道があった。
僕は動揺したが、メモを持っていたことを思い出した。
・・・やっぱり、メモをもっていて正解だった。
メモは換気扇通路全体を示していた。いわば、地図ってところかな。
僕はその地図を頼りに換気扇通路を進んでいった。
―――目の前が明るくなってきた。僕はうれしくなり、そのまま進んでいった。
グワンッ
・・・危うく頭から落ちるところだった。
僕が出たところは、森だったんだ。最初にいたときとは違う、道がある森だ。
換気扇通路の出口には丁寧に梯子があった。
それを使い、僕は数時間ぶりの地面に立った。
「外がこんなに恋しいなんて、久しぶりだな。」
僕は一人でそう呟き、要塞を後にした。
道の途中で ふと、考えた。
入り口にあった落し物とは、僕の前に脱出した誰かがリモコンを押して、どうすればいいか迷っているときに・・・残念な結果となったのだろう。
脱出する前に気づいていれば、こんなことにはならなかった・・・。
前の人は僕のように迷った人に合図をくれていたんだね。
ありがとう。命を懸けて助けようとした人へ。