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②銀の女王と金の太陽、星の空

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第六章 別れ



「じゃあね。」

私を女王の私室まで送ってくれた空は、さっさと踵を返す。

「待って!」

その言い方が、まるでお別れのようだったので、慌てて私は引き留めた。

空はふり返ると、冷ややかに私を見る。

「なに?」

射抜くような鋭い視線に、若干怯みながらも食い下がる。

「私の護衛は?」

「とりあえず女王の身を狙う奴、見つけたでしょ。護衛はそれまでの話。もう次の任務が入ってるから。」

(やっぱり、これで空は里に帰るんだ。)

私はその腕にしがみつくと、必死で言い募る。

「これから太陽の尋問が始まるんでしょ?空がいないと…。」

「俺、関係ないし忙しいし。」

呆れたように言う空に、私は尚も言い募る。

「私、精神力を鍛えて、あなたが顔を隠したり距離を取らなくても普通に話せる相手になるって言ったよね。」

空は感情の読めない切れ長の黒水晶の瞳で、私を見下ろす。

「ほら!もうこんなふうにくっついても、間近で目を合わせても大丈夫になっ」

「必要ない。」

私の言葉を遮って、空は冷ややかに言った。

「俺たち忍は、任務ともなれば仲間だって家族だって恋人だって殺す。」

空は、しがみつく私を振り払う。

「忍に情は邪魔なだけだ。」

そう言い残して、その場から消えた。

「空…。」

私へ向けてくれた柔らかな微笑みも、太陽から二度守ってくれたのも、すべて任務…。

『仕事』だからなのに…私は勝手に好きになってしまった…。

そして、『仕事』が終わったから空は帰っただけなのに、まるで捨てられたかのような絶望感に襲われて…本当に馬鹿だ、私。

空にとって、私は仕事以外で関わるつもりのない人間だったのに。

そうわかってしまったのに、それでもなおも空の特別になりたい、なれるのではないかと淡い期待を抱く身勝手さに、我ながら辟易する。

恋とは、こんなにも自分勝手になるものなのか…。

(いや、これは私が今まで何でも思い通りになってきたから、我が儘なだけなんだろう…。)

現に、銀河は自分の気持ちを押し留めて、私の気持ちを最優先にしてくれた。

私には、あんなことできない。

銀河の器の大きさを改めて知る。

本来なら、そんな銀河と結婚するのが幸せだろうし正しいのだろう。

けれど、私の魂は、空を求めている。

空以外、受け入れることはできないのだ。

たった2日間なのに、空のことをこんなにも深くどうしようもなく好きになってしまっていたのだ。

でも、その空とはもう二度と会うことはできないだろう…。

私は両手で顔を覆って、泣いた。

「女王様!?」

私室から女官たちが慌てて出てくる。

それでも私は人目を憚ることなく、声をあげて泣いた。

私室へ連れていかれても、泣き続ける。

帝王学を学び、訓練を受けてきた私は、母が亡くなった時も、兄が亡くなった時も、人前では決して泣かなかった。

唯一、この私室で太陽と二人きりになった時にだけ、涙を流すことができた。

でも、それでも、声をあげて泣いたのは、父が亡くなった幼いとき以来だった。



「聖華、どうした?」

ハスキーな声に顔をあげると、銀河が立っていた。

銀河の後ろで女官たちが頭を下げて、部屋を出ていくのが見えた。

「聖華の様子がおかしい、と女官が血相を変えて太陽を探していたから、急いで様子を見に来てみたら…。」

言いながら、銀河はソファーに座る私の横にそっと腰かけた。

銀河の体重でソファーが沈み、自然と体が銀河のほうへ傾く。

銀河はそっと私の肩を抱いて、そのままなだめるように撫でてくれる。

「太陽のことが、やはり辛かったか?」

気遣うような優しい問いかけに、私は初めて太陽のことに思いが至った。

空ともう会えないかもしれないことばかりに囚われて、現実の問題をすっかり忘れてしまうなんて…。

(どこまでも私は身勝手だな。)

私は涙を拭いながら、銀河を見た。

「そうだ…太陽は?もう始まった?」

銀河は一瞬目を丸くすると、ゆっくりと頷いた。

「さっき意識が戻ったと連絡が入ったので、今から向かうところだったんだ。」

「私も、行く。」

銀河の言葉に重ねるように言うと、銀河は私の頭を優しく撫でた。

「もっと辛い現実を知ってしまうかもしれないよ。」

気遣うようなその三白眼を、私はもう蛇のようだと感じなかった。

「大丈夫。太陽のほうがもっと辛かっただろうから、その一部だけでも私は受け止めていかないといけないと思う。太陽の苦しみに気づいてやれなかった、せめてもの罪滅ぼしに…。」

私が銀河をまっすぐに見つめて言うと、銀河は少し眩しそうに三白眼を細めた。

「じゃ、一緒に行くか。」

ソファーから立ち上がった銀河は、私に手を差し出してエスコートしてくれる。

銀河のエスコートは、初めてだ。

今まで太陽にしかエスコートをされていなかったことに、気づく。

当然ながら、手の感触や歩くスピードなどなにもかも違い、少し緊張する。

それは銀河も同じなのか、地下牢へ向かうまでお互い一言も話さなかった。