謝恩会(中編)~手からこぼれ落ちる~
本番は明日に迫っているのに、彼らとの接し方がわからない――
「オレやっぱり、いないほうがいいかな……?」
口をついて出たのはそんな言葉だった。逃げていることはよくわかっていた。悠里が悲しげな顔をするのもわかっていた。それなのに吐き出してしまった。
遠くから要の声が聞こえる。湊人の名を呼んでいる。隣にいるのはおそらく悠里たちの担任の千賀先生で、元ベーシストの彼となにか馬の合うところがあったのだろう、と脳の隅の方で思う。
視界は悠里の姿で埋め尽くされる。積み上げようとしたものをこの手で壊す――こんなことは今に始まったことじゃない。
オレはここにいるべきじゃない――揺れる悠里の瞳を見ながら、湊人はそう思った。
作品名:謝恩会(中編)~手からこぼれ落ちる~ 作家名:わたなべめぐみ