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陰陽戦記TAKERU外伝 ~拓郎編~

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3章,悪魔の実験室



「うわあぁっ!」
 気付いた時にはすでに遅すぎた。
 氷の様に冷たく、まるで関節を固定されて動けない鎧の中にいるような感覚だった。
 必死に抵抗するけどどうにもならない、そして目が朦朧として来た。
「こ、これは…… まさか!」
 忘れたくても忘れられない…… 僕はこれに覚えがあった。
 未練や何かしらの理由で成仏できなかった者達の魂が長い年月を経て変貌した存在…… また『怒り』や『憎しみ』や『嫉妬』などの負の感情が生み出す陰の氣を糧に生きながらにして変貌した破壊の根源、人はそれを『鬼』と呼ぶ。
 これは鬼が持つ陰の氣だった。
「そ、そうか、みんなこれで……」
 僕は全てを理解した。
 大介達はやっぱりここに来た。
 遊び半分でここに来て鬼にやられた。
 ただそれが分かってもどうする事も出来なかった。
 鬼にとって陰の氣は食糧にもなるし武器にもなる、でも人間にとっては有害で動きを束縛する事もできるけど最悪の場合は鬼にしてしまうことだってある。
 僕は目を閉じるとそこで意識が途切れようとした。

「はああっ!」
 でもその時だ。
 突然僕の周囲にまとわりついていた鬼の陰の氣が払われると僕はそのまま床に落ちた。
 叩きつけられたおかげで僕は意識を取り戻し、首を左右に振ると腕で体を起こして後ろを見た。
「大丈夫か?」
「い、石動さんっ?」
 僕は目を丸くした。
 何で石動さんがここへ?
 そう思っていると散り散りになって無数の野球の硬球サイズになっていた陰の氣達が宙に浮かびあがって1つに纏まった。
 陰の氣は膨れ上がると形を変えて行き、2本の角の巨大な髑髏の頭部と長い体に無数の足が生えた百足のような鬼になった。
『ギシャアア―――ッ!』
 避けた口を大きく開いて吼えると鎌首を立てて石動さんに襲いかかった。
 片や石動さんは体術で戦うスタイルなんだろう、腰を低くするとグローブ越しの指をギチギチと音を立てながらゆっくり折って右拳を作ると右脇まで引き、左手を手刀の形にして身構えると床を蹴って走り出した。
 ほんの刹那の出来事だった。
 右拳に紫色の光が灯ると鬼に向かって突き出した。
 石動さんの正拳突きは見事鬼の頭をぶち抜くと、その箇所がビキビキと音を立てながら凍りついて行った。
『ギャアアァ――ッ!』
 鬼は奇声を上げて粉々になって砕け散った。
 床に転がった氷の破片は黒い煙を立てながら消滅した。
 戦いが終わると石動さんは臨戦態勢を解いて深く息を吐いた。
「雨とは言え日も暮れる時刻だ。鬼達が活動し始めたんだな」
 石動さんはそう言いながら僕を見た。
 それはそうと気になる事がある。
「石動さん、どうしてここへ?」
「勿論任務だ。まぁ、君の所へ行くのは正直ついでだったんだがな」
 ついでだったのか、どうりで石動さんの服が濡れて無いと思った。どうでもいいけど……
 ってそんな場合じゃ無かった。
 苦笑する石動さんを見ながら僕は美春ちゃん達が鬼に攫われた事を話した。
 すると石動さんは顔を顰めると言って来た。
「そうか、やはりな」
「やはり?」
 僕は顔を曇らせる。
 すると石動さんは目を泳がせて少し迷ったけど懐から一冊の本を取り出した。
 それはかなり古い革製の分厚い本だった。
「そこで見つけたんだ」
 僕はそれを受け取って開いてみた。
 中には一枚の白黒写真が収められていて、中央にいる初老の男性を中心に20人ばかりの白衣を着た人達が学校の集合写真のように写っていた。
 僕はそれを手に取ると石動さんに尋ねた。
「これは?」
「かつてここに勤めていた人達の写真だろう…… その本は当時の業務日誌だ。読んでみたまえ」
 石動さんに言われて僕は頷いた。
 写真を表紙と左手の間に収めると言われた通り業務日誌に目を通した。
 するとそこには恐ろしい内容が書かれていた。