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陰陽戦記TAKERU外伝 ~拓郎編~

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 天井も崩れ落ちてはいるけど雨宿りするには十分だった。
 僕は慌てて上着を脱いで思い切り振って水気を飛ばした。
 美春ちゃんもウェスト・ポーチからハンカチを取り出して顔や髪を拭った。
「はぁ、酷い目にあったね」
「ホント…… くしゅんっ!」
「美春ちゃん!」
 やっぱりハンカチ程度じゃどうにもならなか……
 だけど僕も美春ちゃんもタバコは吸わないからライターもマッチも持って無い、あったとしても廃屋で火を焚くのは危険だ。
 一応別の方法があるにはあるけど……
 僕は後ろを振り向きながら言った。
「み、美春ちゃん!」
「な、何?」
 声が裏返ってビックリしたのが分かる。
「やっぱり服を絞った方が良い、このままじゃ風邪を引くよ…… 僕は向こうに行ってるから」
「拓郎君っ!」
 美春ちゃんが呼びとめるのも聞かず、僕は部屋を出て行った。
 廊下に出て右折、入口から少し離れた壁に背を当てると大きく深呼吸した。
「はぁ、何緊張してんだ」
 僕は目を閉じると右手の甲で軽く額を小突いた。
 別に悪い事をしてる訳じゃない、ああ言うしか無いのは分かるけど…… 一応年頃故に想像してしまう、やっぱり僕も男だな。
「……拓郎君」
「は、はいっ!」
 何故か敬語で答える。
「終わるまで…… そこにいてくれる?」
「も、勿論! いつ間でも待ってます! 永久に待ってます!」
 本当に何言ってんだ? と自分でも思う。
 心臓が高鳴る、頭の中がムラムラしてくる、この瓦礫同然の壁の向こうで美春ちゃんが……
 それを考えると僕は頭の中が真っ白になり、呼吸が荒くなって火にかけたヤカンの様に沸騰した。
「ああぁぁあああ―――ッ!」
 僕は喚き散らしながら頭を掻き毟った。
「た、拓郎君どうしたの?」
「えっ? い、いや別に!」
「別にって…… 何かあったんじゃないの?」
「いいや、本当に何も無い! 絶対に無い! 神に誓って!」
 僕は叫んだ。
 すると刹那の間が空き……
「拓郎君…… お話しましょうか?」
「ええっ? ああ、うん……」
 僕は唾を飲み込んで頷いた。
 僕の心境を分かってくれたかどうかは分からない、でも気持ちが落ち着いたのは事実だ。
 僕は改めて背中を壁に当てながら言った。
「それで、どんな話が良いの?」
「拓郎君、昨日何かあった?」
「えっ?」
「だって拓郎君、いつもと様子がおかしいから……」
「そう…… かな?」
「うん、まるで中学の頃の…… 武先輩達と一緒にいた時みたい」
「っ!」
 僕は息を呑んだ。
 そして昨日の…… 石動さんと出会った時の事を思い出した。
 そして僕は彼から貰った物を持って来た。それは今もズボンのポケットの中には行ってる……
 勿論陰陽師になる訳でも無い、ただ何かあった時の護身用になると思っただけだ。
 僕はポケットの中に手を入れるとグローブを握りしめながら苦笑して言った。
「大した事じゃないよ、ただ昔の事を思い出しただけだよ」
「私にも、言え無い事?」
「それは違うよ! ただ…… 皆と約束してて、それにどこまで話して言いか分からなくて……」
 いっそ話しても良いかもしれない、誤魔化すのにも無理がある、ただ恐かった。
 彼女自身の事もあるけど、何より今の関係が壊れてしまうかも知れなかったからだ。
 人間は未知の存在や力に畏怖する物だ…… 実際陰陽師が必要だった千年前の平安時代でも法力を持つ人は気味悪がられていたらしい、実際その人と会って聞いた話しだから間違い無い。
 当時は科学の時代じゃ無かったから何かあったらその人の責にされて迫害され…… 最悪の場合殺されそうになったらしい。
 そんな昔でさえ悲惨な目に会うんだ。今の世の中じゃ殺されはしないだろうけどどうなるか分からない…… いや、ある意味じゃ殺されるよりずっと辛いかもしれないな。
 僕は目を強く閉じて眉間に皺を寄せた。
 すると会話が途切れたのか、美春ちゃんは自分から言って来た。
「ご、ごめんなさい、聞いちゃいけなかった? だったら別に私…… ――ッ!!」
「美春ちゃん? 美春ちゃんっ!」
 美春ちゃんの声が途切れた。
 タダごとじゃ無くなったと思った僕は部屋の中に入ろうとする、だけど理性が働いて思わず足を止めた。
 だけど思いきって決断した。
「ああっ、もうっ!」
 僕は部屋の中を見た。
「えっ?」
 美春ちゃんの姿がどこにも無かった。
 僕は目を疑った。
 密室って訳じゃないけど外に出れる訳が無いからだ。
 窓ガラスは割れていて身を乗り出そうものなら血まみれになるけど血痕なんて着いて無いし、壁だって所々崩れているけど人間が通れる程大きく無い、良くて猫か小型犬が通れるくらいだ。第一崩れ落ちたなら物音くらいするはずだ。
 僕は部屋の中に入りながら周囲を見回した。
「一体どこに……」
 僕は眉を細めているその時、僕の足元に黒い煙の様な物が溢れ出た。
「何っ?」
 それはまるで意思を持つかのように溢れ出すと僕の体にまとわりついた。