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①銀の女王と金の太陽、星の空

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太陽の言葉に、空と呼ばれた男は大きくため息をついた。

「わざわざそんな面倒なこと、しないよ。」

言いながら、抱いていた私をゆっくりと地面にたたせる。

(あ、立てた。)

「今回は、任務。」

(任務…。)

「金のために、女王を拐い、王子の僕を殺すのか。…相変わらず下賤だな!」

太陽の罵りを、空は軽く受け流す。

そして、おもむろに私の腰を抱き寄せた。
そのまま頬を掴むと、空は顔を近づけて私と視線を間近で交わす。

ゆっくりと口許を覆っている布を取り、真剣な表情で私を見下ろした。

この時に、初めて空の顔をハッキリと見た。

月明かりに照らされたその顔は、この世のものとは思えないほど美しく、妖艶だった。

(なんだか、頭に霞がかかる…。)

「俺を雇ってほしい。護衛として。」

ぼんやりとした私の頭に、体も心も溶かすような甘い声がするりと入ってきた。

「あらゆる魔の手から守るよう、依頼がきたんだ。」

そこで言葉を切ると、鼻と鼻がくっつきそうな距離まで顔を近づけて、私をジッと見つめる。

心臓がどくんっと大きく跳ね、一気に体の奥底から甘く疼く。

「…俺が、おまえを守ってやる。」

艶やかな低音で言われると、体の内側からザラリと舐めあげられるような心地よさが湧き出す。

鼓動が激しくなり、抗いたい快感が体を突き抜け、何も考えられなくなる。

「はっ…。」

呼吸が浅くなってきた。

ただ無性にその胸にすがりつきたくなる衝動を、なんとか必死に押し留める。

私はギュッと唇を噛むと、頭を軽く振り、自分を保とうとあがく。

「…すごいな、これでも自分を保とうとする意識が働くなんて…。」

空の呟きが耳に入り、閉じていた目を私は開く。

自身の目にグッと力を入れると、太陽を見て、ゆっくりと頷いた。

そして呼吸が乱れて甘い疼きに苦しみながらも、腹に力を入れて声が裏返らないように気合いを入れる。

「護衛として、雇います。」

私の宣言に、太陽が目を大きく見開き、信じられないと言った表情で私を見る。

そんな私たちをよそに、空は私からパッと離れ、口の中にまたあのミントの粒を押し込む。

噛むと、とたんに甘い疼きが消え、呼吸も鼓動も元に戻った。

「女王の許しが出た。」

口許をまた黒い布で覆いながら、切れ長の黒瞳が太陽を鋭くとらえる。

「第一の側近である太陽王子の実力は見せてもらった。そして、女王が王に相応しい人格を持ち合わせていること、護衛任務を請け負うに値することが確認できた。任務はこれより星の頭領、空が確実に遂行する。」

空の言葉と共に、太陽を捕らえていた者たちは一斉に離れ、一瞬で消えた。

狼たちも、いつの間にか空の足元に座っている。

解放された太陽が駆け寄ってきて、私を力強く抱きしめる。

「怪我はしてないか?何も無体なことをされていないか!?」

そういう太陽からは、血と汗と泥の匂いがする。

(いつもはカモミールの香りがしているのに…)

「大丈夫よ。」

私が笑顔で答えると、太陽は更にぎゅっと抱きしめてきた。

「聖華が…無事でほんとに…良かった!」

太陽は私の体を掻き抱くように、何度も強く抱きしめる。

その時。

「とりあえず、帰らないか。」

飄々とした口調の、低い艶やかな声がした。

「馬車は俺の手の者が片付けるから、このままで。怪我してる近衛も馬には乗れるでしょ。」

空が近衛たちに指示を出し始める。

太陽は私の体を離すと、空に掴みかかる。

「貴様が指示を出すな!僕が指揮官だ!」

胸ぐらを捕まれた空は、浅く笑う。

「怪我を負ってる部下を放っといて、何言ってんのさ。女王が無傷なのは、見りゃわかんでしょ。」

その言葉で太陽の怒りが爆発したのを感じて、私は急いで二人の間に割り込んだ。

「まずは怪我人の手当てが最優先だから、帰りましょう。」

太陽は私の顔を見て口を引き結ぶと、深呼吸をして自分を落ち着かせる。

「帰城する!馬に乗れないものはいないか?」

言いながら馬に跨がり、ぐるりと近衛たちを見る。

みんなよろよろとしながら馬になんとか跨がれたのを確認すると、太陽は私をそっと抱き上げ、自分の前に対面に座らせる。

私がその腰に腕を回して胸に頬を寄せると、太陽も私の背中に手を回してぎゅっと抱きしめてくる。

(そういえば、馬がない空はどうするのかな?)

ふと気になって太陽の後ろを確認すると、どこにも姿がない。

「太陽、空がいないんだけど…。」

すると、太陽は辺りを見回して空がいないのを確認する。

「『確実に任務を遂行する』んじゃなかったのか!」

忌々しげに言うと、太陽は出発の号令を出した。


馬を走らせたので、二時間で城へ帰り着くことができた。


「ずいぶん遅かったな。」

城門のところで、腕組みをした銀河が立っていた。

「なんだ、皆ケガをしているじゃないか!」

銀河は焦った様子でこちらへ駆け寄ると、私へ手を伸ばす。

「聖華、ケガは?馬車はどうした?」

太陽はその手を一瞥すると、私を片腕で抱き上げる。
そして、そのまま馬から飛び降りた。

太陽は私を抱いたまま銀河に頭を下げて、近衛をふり返る。

「皆、ご苦労だった。医務方で手当てを受けて帰るように。明日の視察は休み。明後日以降はまた連絡する。」

一斉に敬礼をして、解散となった。

改めて太陽は銀河に向き直ると、事務的に挨拶をした。

「わざわざのお出迎え、ありがとうございます。賊の襲撃に遭いましたが、女王陛下は無傷でお守りしております。ただ、女王陛下もお疲れですので、このまま私室へとお連れします。詳しいご報告はまた明日致しますので、ひとまず失礼させて頂きます。」

そして深々と頭を下げて、銀河の返事を聞かずに立ち去る。

そのまま無言で、太陽は私を抱いたまま廊下を歩いた。

(ものすごく機嫌が悪い…。)

ちりちりと肌を焼くような怒りの炎が、全身から立ち上っているようだ。

この不機嫌の原因は、たぶん空を雇ったことだろう。

太陽にしてみたら、自分に対して遺恨のある者がこれから身近にいることは、複雑な気持ちだろう。

でも、遺恨はあるにしても、空が優秀な人材であることは確かだ。

それが敵対するのではなく、任務とはいえこちら側にいてくれるなら、損はないと思う。

部屋に着いて少し落ち着いたら、話してみよう。

そう思った時、ちょうど私室に着いた。


「おかえりなさいませ、女王様。太陽様。」

女官たちが出迎えてくれるが、太陽はチラリとも見ず、返事もしない。

「ただいま。」

私は太陽に抱えられたまま、女官たちに笑顔を向けた。

女官たちは初めて見る太陽の殺気立った様子に戸惑いながらも、笑顔で声を掛ける。

「お茶のご用意を致しますね。」

そのうちひとりの女官が、太陽の姿を見て声をあげた。

「まあ!太陽様、お顔に傷が…!すぐに医師を呼んで参ります!」

慌ただしく部屋を出ていく女官に対しても、太陽は無反応のまま。

私を抱いて、ただ無言で室内を歩く。

「女王様…。」

女官が不安そうに小さく声をあげたので、私は女官を安心させようと笑顔で頷いた。