①銀の女王と金の太陽、星の空
(お茶で一服したら、太陽も少し落ち着くかもしれない。)
とりあえず、今は黙って私は太陽に従うことにした。
すると、太陽は私をそっとソファーにおろす。
「お茶をこちらへ置いておきますね。」
恐る恐るといった様子で、女官が太陽に声を掛ける。
けれど太陽はやはり反応せず、おもむろに上着を脱ぎ椅子の背もたれに放り投げた。
女官が慌ててそれを取り、破れや汚れに驚いて太陽を見る。
そんな女官の前で、シャツの襟首のボタンを外し、胸元まで大きく開く。
その時はじめて、太陽の怪我の程度を私は知った。
露になった胸元には深い切り傷や噛み傷が無数にあり、白いシャツは破れ、真っ赤に染まっていた。
「熱いタオルのご用意を…!」
またひとり、パタパタと走って部屋を出て行く。
(太陽…よくこんな傷を負いながら、私をここまで守って…。)
私はそっとその傷だらけの胸に、手を滑らせた。
まだ出血している傷も、たくさんある。
すると太陽はぴくりと体をふるわせ、私を見下ろした。
「ごめん、痛かった?」
私の問いかけには答えず、ソファーに片膝をついて顔を近づけてきた。
「太陽?」
いつもは澄んでるその湖のような碧眼が、今は熱を持って暗く光っている。
戸惑う私の顎を太陽が掴んで荒々しく上向かせた時、残っていた女官たちが慌てて出ていくのが見えた。
女官たちの姿を目で追っている私の耳元で、低い声がする。
「空に、惑わされただろ?」
(え?)
そのまま乱暴に口付けられる。
深く、荒く、太陽が入ってくる。
私は必死で抵抗するけれど、太陽の強い力に敵うはずもなく、そのままソファーに押し倒され、角度を変えながら何度も口付けられた。
身体は血と汗と泥の匂いだけれど、太陽の吐息はカモミールの香りのままだった。
その瞬間、ごつっ、と鈍い音がした。
同時に、私に覆い被さるように太陽が倒れ込む。
(気を失ってる?)
気を失った太陽の全体重がのし掛かり、私は重くて身動きが取れない。
「…太陽?太陽!大丈夫?」
太陽を揺さぶりながら言う私の頭上で、呆れたような溜め息が聞こえた。
「襲ってきた相手を、心配してる場合じゃないでしょ。」
低く艶やかな声に目を上げると、空がこちらを見下ろして立っていた。
(いつの間に!?)
空は太陽を肩に担ぎ上げると、そのまま部屋を出ていこうとする。
「そ…空!」
思わず呼び止めてしまった。
気怠げにふり返る空に、私は慌てて言葉を探す。
「あ、あの、早速ありがとう!」
空はその切れ長の黒い瞳を三日月にすると、音もなく出て行った。
(口元の表情が布で覆われていてわからないけれど…笑顔…なのかな?)
なんともわかりにくい笑顔だけれど、それでも心が浮き立つほど魅力的だった。
今まで感じたことのない感情と先程の太陽の行動に戸惑い、私はただただ呆然とするだけだった。
作品名:①銀の女王と金の太陽、星の空 作家名:しずか