EMIRI どんなに素敵な昨日でも
「え? えぇ、まあ」
「あれあれ? ケンカ中とか?」
「そうじゃないです!」
「そうなの? オタクが一人でいるとこ、ほとんど見たことないけどね」
「なんでそんなこと知ってるんですか? あたしはあんたに興味ないですよ」
「あれ? もうフッテル?」
「いえ、そういう意味ではありません!」
「雨」
「え?」
「雨降って来た」
「…あ」
(なんだ雨のことか、恥ずかし)思わずうつむいた。
その時、彼は走り出した。周囲の学生も一斉に早足になったので、恵美莉は一瞬、取り残された。急いで彼の後を追ったけど、階段で人ごみに阻まれ見失ってしまった。
食堂に着いて周囲を見渡すと、トレーを持って並ぶ列の中に彼がいた。
「こっちこっち」
手招きする彼。戸惑いながら、恵美莉もトレーを持って、先に並ぶ学生に頭を下げて追い越し、彼の後ろに入った。
「スペシャルなんて、食べたことないんじゃないの?」
「どうしてそう思うの?」
「講堂から一目散じゃないですか。めちゃくちゃ早く走ってたし」
「へへ、そんなことないよ、結構食べる」
「本当ですか? 顔ニヤけてますよ」
「ヒヒヒ、今日のメニューは、和牛ビーフカツか」
「うわっ、おいしそうですね」
「オタクもスペシャル食べる?」
「ランチが1000円オーバーになってしまう」
作品名:EMIRI どんなに素敵な昨日でも 作家名:亨利(ヘンリー)