EMIRI どんなに素敵な昨日でも
「じゃ、もう放っておく気? サボるほうが悪いんだしね」
恵美莉は困った。彼女は律儀な性格ゆえ、頼まれたことを放っておけない。
「俺が取ってきてやろうか?」
「いいの?」
「その代わり学食おごってくれたら」
恵美莉はその男子を横目で見ながら、一瞬考えて、
「じゃAランチで」
「スペシャル!」
「うーん・・・」
Aランチは320円、スペシャルセットは530円である。
「仕方ない。それで交渉成立よ」
恵美莉はその後、授業を受けながら腹が立ってきた。なんで河辺みのりのために、530円も出費しないといけないのかと。でもその男子学生は、うまく2枚目の聴講カードを手に入れてくれた。
経済学の授業は一般教養の選択科目で、全学部から学生が一度に聴講するので、講堂を出たら300人ほどでごった返す。その学生のほとんどが食堂を目指すので、流れに任せればいい。でも恵美莉は少し焦っていた。聴講カードを手に入れてくれた彼と、はぐれないようにしなければいけなかったから。
「ちょっと待ってください」
「何してんの。早く学食行こうよ」
彼は、振り返ったものの、歩みを止めずに歩き続けた。
「っあたし、あなたの事よく知らないから」
「俺、見た事ない?」
「あんまり見た事ない」
「俺、オタクのこと去年から知ってる」
「え? なんでですか?」
「背の高い彼氏いるだろ」
「あ。アイツは目立ちますからね」
「今日は彼氏いないの?」
作品名:EMIRI どんなに素敵な昨日でも 作家名:亨利(ヘンリー)