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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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EMIRI どんなに素敵な昨日でも

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 火曜日、恵美莉は一人でさびしく経済学の授業に出席していた。そこは大講堂で、大勢の学生が聴講している。先週まで隣には必ずお決まりの男子が座っていたのだが、ノートの端っこを切り取って、小さな鶴を折りながら、その颯介のことをまた考えていた。

「恵美莉。お願い! 私のカード提出しておいて」

 その声にはっと我に返って振り向くと、恵美莉と同じ国際コミュニケーション学科の河辺みのりが、黄色い紙を差し出した。
「ごめん。彼にLINEで呼ばれて、会いに行ってくる」
「わかった」
その紙は、授業の途中に一人一枚配られる“聴講カード”で、授業終わりに学籍番号と氏名を記入して先生に提出すると、出席扱いになると言うものだ。それをどこからか手に入れて、二枚重ねて提出してもらうなどして、授業をサボった学生がズルをする事がよくある。
 河辺みのりは、姿勢を低くして講堂を抜け出して行った。

「それやばいぜ」
 後ろの列に座っていた学生が、小声で言うのが聞こえた。恵美莉は振り向いて、
「え? なんで?」
「あの教授のカードには、いつも認印が押されてるはずだ」
その男子学生は他の学部の学生らしい。恵美莉には面識がない。
「今まで、そんなの押されてなかったでしょ」
「いいや。ブラックライトを当てたら、光るインクで押されてるんだ。違うカードで代出(代理で提出)してもバレる」
「ええ! どうしよ」
「配られる時、うまく2枚もらうしかないな」
「でも、机ごとに、人数分数えて配布されるのに?」
「もらった後、こっそり別の席に移動して、またもらうしかないけどな」
「そんなことできないわ」