EMIRI どんなに素敵な昨日でも
恵美莉は、ラムチョップを二本食べ終えた。都度、赤ワインで流し込む感じで。
「ぷーふぅー。食べ終わってみたら、結構おいしかったかもしれません」
「それはよかった。僕が変に勧めたから心配だったよ」
「ワインも好きになるかも」
「酔っ払ってない? ビールよりキツいからね」
「結構大丈夫な感じです。それよりクリームブリュレ」
「これもおいしーい」
「やっぱり、女の子だね」
「クリームブリュレだけは、絶対にハズレがない」
「それだけ洗練されてるスイーツってことかな」
「そんな女になりたいです。昨日までの私から変わりたい」
「自分を変えてみる。そうしないと、先に進めないんだね」
「そのとおりです」
「過去を断ち切るには、何か新しいことにチャレンジするしかないね」
桧垣が腕時計を見た。
「先生もう帰っちゃうんですか? 飲みに連れてってくださいよ」
「未成年だからこれくらいにしておかないと」
「じゃあ、ホテルに行きませんか?」
「!」
「あたし、颯介しか知らないから、怖いんです。だから、あたしを変えさせてください」
「よっ酔っぱらってる?」
「お酒は強い方なんで、平気です。でも、飲んだ時じゃないと、こんなことお願いできないし」
「だから酔ってるって」
「ワインを知らないと、ラムチョップのおいしさが分からないんでしょ。今までコーラだけしか知らなかったみたいに。だからもっと教えてください」
「抱いてほしいと言ってるんだよね」
「先生、抱いてください。今の自分を捨てれば、違う自分になれる気がします」
桧垣は、少し顔を近づけて、
「前に言ってた“覚悟”ができたってことだね」
「はい、小説だったら、絶対こんな展開になるはずだから」
恵美莉も前のめりになって、笑みを浮かべ小声で言った。
作品名:EMIRI どんなに素敵な昨日でも 作家名:亨利(ヘンリー)