EMIRI どんなに素敵な昨日でも
教授の入室と同時に春樹は席に着いた。しかし、それはなんと恵美莉の後ろの列にだった。
(えっ? 予想外! なんで隣一席空けてると思ってんのよ)と少し腹が立った。その時、冷静に考えてみたら、(菅生君にとって自分はそういう対象じゃないのかもしれない。ひょっとしたら、ちゃんとした彼女だっているのかも)
恵美莉はノートを広げながら、こわばる表情を見せないように、前を向いた。
(うわー。自己嫌悪。なにやってんだろ、あたし)
春樹が肩を、ちょん! と突いた。
「チョコ食う?」
恵美莉は振り返って、春樹の顔を見た。彼はやさしそうな表情で笑いながら、
「これ買ってたら、遅刻しそうになった」
「あ、ありがとう」
恵美莉は指先を緊張させながら、チョコの箱から一粒取って、再び春樹を見た。すると春樹は、教授の方を見ながら、
「隣行ってもいい?」
と聞いた。恵美莉はチョコを噛みながら、慌てて、
「・・・うん。どうぞ」
(なによ。行動が読めない。颯介に慣れすぎてて、あたしにはこの人の行動は意外過ぎる。ドキドキするじゃない)
春樹はスルスルっと前の席に移動して、
「この中東の授業って面白い?」
「あたしは興味深いと思うけど」
「どの辺が?」
作品名:EMIRI どんなに素敵な昨日でも 作家名:亨利(ヘンリー)