EMIRI どんなに素敵な昨日でも
午後の3時限目を聴講した後、恵美莉は学生相談室に入った。その部屋の奥には、カウンセリングルームがあり、学生生活に悩む生徒がよく相談に訪れる。
「こんにちは、お疲れさまです」
「あ、川崎さんこんにちは。今日は予約ないから、暇だよ」
この日カウンセラー当番の桧垣が、漫画を読みながら言った。
カウンセリングは、午後3時から6時まで受付がされている。恵美莉は4月からここで週2〜3回、受付のアルバイトをしていた。
「ちょっと暑くなってきたよね。もう6月か。エアコン入れようか?」
「髪がうっとうしいけど、大丈夫です」
42歳の桧垣は、青年心理学の助教授で、その講義を恵美莉も受けているのだが、その授業中にアルバイト募集の話が出て、真っ先に手を上げたのが彼女だった。
「月曜日はすごく暗かったけど、その後、連絡取ってないの?」
「・・・ふう、颯介とは、もうきっぱりと別れたんで」
「でも最近じゃ、ネットを通じて連絡簡単なのに、やっぱり許せないのかい?」
「はい。もっと通じてると思っていましたから」
「彼、出発してそろそろ1週間だろ。ヤケな行動取りたくなる時期かも知れないから、気を付けてよ」
「あたしがですか?」
「うん。君の場合、他の子と違って、長い付き合いの末の事だからさ」
この日、二人の学生が相談に訪れた。もちろん相談内容は、恵美莉には知らされていない。一人に付き15分ずつぐらいのカウンセリングだが、毎回、彼氏の愚痴だけ言いに来る常連もいることは知っている。
作品名:EMIRI どんなに素敵な昨日でも 作家名:亨利(ヘンリー)