EMIRI どんなに素敵な昨日でも
6時になると、桧垣と恵美莉は、相談室に鍵をかけて出る。そこで桧垣は毎回、
「晩飯食べて行かないか?」
と聞いてくる。最初2回はご馳走になったけど、毎回は悪いので、最近は遠慮して断っていた。
桧垣の誘い方は上手だった。押し付けずさらりと誘う。
「今日は、ご一緒してもいいですか?」
「あ、OKなの?」
「先生がOKなら」
「やっぱり、そろそろそんな気分の時期かなって、思ったよ」
「はぁ。やっぱりそんな気分です」
二人は、大学の近くの目立たない駅裏で賑わう、今年オープンした焼き鳥屋に入った。
「ここ来た事ある?」
「はい、クラスの女子と来ました」
「そうか、よかった。そういう店の方が安心だろ」
桧垣はさすがに心理学者。彼女の心を読んで行動している。
二人はまず、生ビールと焼き物のお勧めセットを注文した。それと恵美莉は冷奴も。
「先生は、ご結婚されてますよね」
「あ、指輪で分る?」
「はい。奥様も上手に扱われているんですか?」
「え?」
「あ、すみません。変な言い方してしまって」
「妻の気持ちを心理学的に読んで、接してるって事?」
「はい、そういう意味です」
恵美莉は長い髪を束ねて巻き上げて、ヘアクリップで留めた。
作品名:EMIRI どんなに素敵な昨日でも 作家名:亨利(ヘンリー)