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Planet of Rock'n Roll(第二部)

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3.デビュー!



「ボギー、だいぶお疲れの様子だな」
「頬がげっそりしちゃってるわよ」
「言ってくれるな……しかし、実際、疲れたよ……だが、マリリン、君のおかげで良いメンバーが見つかったぜ、礼を言うよ」
「どういたしまして、お役に立てて光栄よ」
「ボギー、君が一番苦労したことはわかってるよ、おいらもマリリンもそのことは忘れないぜ」
「ああ、ありがとう……だが、これでやっと計画を次の段階に進められるな、素晴らしいバンドが三つも誕生した、しかし、人知れず存在しても何にもならん、彼らをデビューさせないとな」
「いよいよだな、で、どうする?」
「もう彼らは我々の存在に気づいている、マリリンが派手に踊ってくれたおかげでな」
「だって、ロックン・ロールってそう言うものじゃない?」
「確かにそうだな、それに俺も他人の事は言えないな、なんだかんだと表立って立ち回ったからな」
「いや、ボギー、君の場合は仕方がなかっただろ?」
「そう言ってもらえると気が楽だよ……どのみち存在は知られてるんだ、それぞれ、バンドのメンバーにだけは我々がM星人だとカミングアウトして構わない、だがいいか、メンバーにだけだぞ……そして我々の目的を説明してくれ、その方がこの先やりやすいからな」
「いゃん、このナイスバディがモビルスーツだって知られちゃうのね」
「おいらの方はその方が良いな、何しろおいらの腰は人間離れしたスピードで動いちまうからな」
「ねえ、だったらバックダンサーやっても良いかしら?」
「そう来ると思ったからな、もう王様に許可を貰ってある」
「素敵!」
「おいらも頼んでおけば良かったな」
「エルビス、君の分の許可も貰ってあるよ」
「ヒュ~! そいつはグレートだぜ! だけどボギー、君はどうなんだ? その姿でバックダンサーはねぇよな」
「ああ、そこに抜かりはない、もうすぐM星から援軍が到着する」
「へぇ、そいつは誰の姿をしてるんだい?」
「それは到着してからのお楽しみと言うことにしようじゃないか」

 数日後、M星から宇宙船が到着した。
 降りてきたのは二人……いや、一人と一匹と言うべきか……。
 一人はジーン・ケリー、そしてもう一匹はこぐまのミーシャの姿をしていた。

  ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

「いや、これは確かにそっくりだ……」

 香港のカジノで、毎夜開かれているセレブ向けの豪華ディナーショー、今夜の演し物は『甦るエルビス・オン・ステージ』だ。
 大物音楽プロデューサーの黄文明は、エルビスの大ファン、『どうせたいして似てはいないだろうし、口パクなんだろうな』と思いつつも、エルビスとあっては見逃せないとばかりにテーブルについていたのだが……。
 
 出演者はエルビスに生き写し、腰は本物以上によく動く。
 そして声も歌い方もそっくり。
 一般的な労働者の年収に相当する額のテーブルチャージも、これなら高くない。
 
 そして、もう一つ気になっていることがある……バックバンドだ。
 実に素晴らしいフィーリングでロックン・ロールを奏でているのだ。
 五〇年代の雰囲気をしっかりと出しているが、彼らの実力はその程度のものではない、と睨んだ、エルビスの曲、そっくりさんの伴奏だから抑えているように思えてならないのだ。

「サンキュー! おいらはちょっと衣装を換えて来るぜ、その間、ドラゴン・クロウの演奏を楽しんでてくれ」
 エルビスがそう言ってステージを去る、それはもちろん計算の上の事だ。

「イー・アル・サン・スー!」
 馬聖のカウントでドラゴン・クロウ単独の演奏が始まる、そして、睨んだとおり、ここまでの伴奏は軽いウォーミングアップに過ぎなかったことを黄文明は思い知った。

 なんとスピード感のあるギター。
 なんと多彩なドラミング。
 なんと堅固なベース。
 なんと奔放な二胡!
 そして、皮ジャンとジーンズに着替えたエルビスが、曲の途中から乱入して目にも止まらぬ速さで腰を振る。
 
 黄文明はドラゴン・クロウの演奏に聴き惚れ、彼の頭の中はどうやって彼らをプロデュースし、どこでどうやってデビューさせるかで一杯になった。

 冷戦の影響で、表向きは欧米の音楽は禁じられているが、実際の所は根強い人気があって、政府も押さえ込むのは難しいし、得策ではないと考えを変えて来ている。
 しかも目の前のバンドには二胡まで加わっているのだ、政府のメンツを潰さずに彼らをメジャーデビューさせる口実には充分だ、彼らは今の閉塞した状況を打ち破る起爆剤になるかもしれない……。

   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

 大物プロデューサーのジョアキム・ウッドは、バーカウンターの端から視線を送ってくる美女が気になって仕方がない。
「君、彼女になにか好きなものを……」
「かしこまりました」
 バーテンダーが美女に何かささやくと、彼女はにっこりと微笑を送ってくれた。

「ありがとう、マティーニを頂いたわ、ドライじゃないのを」
 マリリンが隣の席に移ってきて、ジョアキムは夢見心地……。
「いや、お気に召してなによりだよ」
「うふっ、素敵な紳士ね、お仕事は何を?」
 知っていてしらばっくれているのだが……。
「ちょっとね、音楽プロデューサーなどやっているんだよ」
「まあ、素敵、どんなアーティストを手がけていらっしゃるの?」
「そうだな……」
 ジョアキムが並べ立てる歌手やバンドの名前に、マリリンはいちいち驚いてみせる。
「敏腕でいらっしゃるのね」
「そうでもないさ」
「あのね、最近お気に入りのバンドがあるの、聴いてみていただけないかしら?」
「あ、いいとも」
「彼ら、『ベイクド・ポテト』に出演してるのよ」
「ほう、老舗のジャズクラブだね」
「でもロックン・ロールバンドなの」
「ジャズクラブで? 場違いじゃないのかね?」
「それは聴いてみて頂ければおわかりになるんじゃなくて?」
 マリリンに顎を撫でられて、それに抗うことが出来るとすれば、それはアメリカの男ではない……。

「これは……」
「どう? お気に召して?」
 なんとジョアキムはマリリンの問いかけが耳に入っていなかった、それほど引き込まれていたのだ。
 
 エレキなのはギターだけ、それもしばしばアコースティックに持ち替える。
 ジャズクラブでも場違いではない理由も納得、彼らがやっているのはR&Bに根ざした、いわば創生期のロックン・ロールだ、しかし、もちろん古臭いものではない。
 電気に頼らなくてもここまでスピード感溢れる、迫力ある演奏が出来るのだと証明しているようにも思える。
 音と音とが重なり合い、分厚い音の塊となってジョアキムを直撃し、圧倒する。
 しかもただの塊ではなく、細やかな表情に溢れている。
 
 一曲終わると割れんばかりの拍手と口笛の嵐。
「スターズ&ストライプスはお気に召して?」
「え?……あ、ああ……実に素晴らしい」
「彼ら、メジャーデビューできるかしら? 応援してるの」
「メジャーデビューできるかって? 私は幸運な男だよ」
「あら、それはどういうことですの?」
作品名:Planet of Rock'n Roll(第二部) 作家名:ST