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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第四章

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「あらましはそこの喜一から聞きやした」

神棚を背にして煙管に火をつける虎造の前に、里嶋は呼び出されていた。

「どうして先生が辰澤村の用心棒なんかとひそひそやっていなさるんです?」

里嶋の後ろにはずらりと虎造の乾分たちが控え、マシラの喜一もそのなかに交じって小狡く目を光らせている。

「あの男――助平権兵衛はおれが昔通っていた道場の朋輩なのだ」

「それで?」

薄い唇をもぞりと動かして虎造が先を促す。

「会ったのは偶然だ。おれは知らなかった。助平が辰澤村にいたことも」

「やい、すらっとぼけるのもいい加減にしやがれ!」

マシラの喜一が裾を割って片膝をたてた。

「おれァ、この両の目で見てたんだ! おめえさんはあの浪人と仲良く話し込んでいた。前々から通じていたにちげえねえ! その証拠にあいつを逃がしてやったじゃねえか! つまり、おめえは――」

「黙っていろといったのが聞けねえのかッ!」

虎造が喜一に向かって湯飲みを投げた。
鈍い音がして湯飲みが割れ、喜一が額を押さえる。その指の透き間から赤黒い血があふれだし、ぽたぽたと膝元の畳に滴り落ちた。

「里嶋さん……」

口調をあらためて虎造が里嶋を見据える。

「おれは明日、あの村に火をつけようと思う」

「!…………」

里嶋は眉をあげて虎造をみた。その表情に高ぶった様子や気負いはみえない。
虎造は煙管の煙をぷかり吹かしながらつづける。

「なにを性急な…と、思われるだろうが、辰澤村の一件はこれ以上長引かせたくねえ。これを鮮やかに解決してこそ、おれの器量が親分衆に認められるってもんでさあ」

「だからって焼き打ちにすることは……」

「それ以外にどんな方法がありなさるんで」

ぎろり、と凄みをたたえた目で睨み返してきた。
里嶋は押し黙る。
黒鉄の虎造は変わった。後見役の座についてから人変わりした。
備わった貫禄以上のものを示そうとやっきになっている。

「明日の焼き打ちにはあんたもきてくれ。話は以上だ」

ぽん、と灰吹に火玉を落として虎造は解散を告げた。
いわれなくてもわかっている。例の用心棒が刃向かってきたら即座にたたっ斬れというのだろう。
里嶋は助平が自分の忠告に従ってくれることを切に願った。