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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第四章

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「見られたな……」

里嶋は権兵衛に向き直るといった。

「いますぐこの掛川の宿からでてゆくんだ」

「里嶋さん……」

「おぬしがどういう事情で辰澤村についているのかは知らぬ。しかし、命が惜しくば村をでてゆけ。すぐさま、その足でだ!」

里嶋が命じるようにいい放つ。

「おぬしが刀を抜いたらおれは……」

「抜いたらどうだというんです」

権兵衛が瞳に強い光をたたえて睨み返す。

「生かしておくわけにはいかぬ」

里嶋が鍔元に手をかける。ほとんど物理的ともいっていい気の放射が権兵衛の五体を揺るがす。
と、そのとき――
ダダダ……という大勢の足音が響いてきた。
遠目にみたところ十数人はいる。
権兵衛は背を返した。背中に里嶋の強い視線を感じる。その視線に押されるように権兵衛は走った。一目散に並木道を走り抜けていった。