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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第四章

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月が中天にのぼっている。
村の入り口がなにやら騒がしい。
庄屋の門前に人があふれている。

「おお、権兵衛さん、ちょうどよかった。わしと一緒にきてくれ!」

太兵衛が目ざとく権兵衛をみつけて駆け寄ってくる。

「なにがあった?」

「あの用心棒たちじゃ」

「用心棒がどうかしたのか?」

「とにかく、ついてきてくれ!」

走りだした太兵衛の後ろについてゆくと、畑の真ん中にある農家の入り口まできた。ここも庄屋の屋敷と動揺に村人の姿であふれており、幾重にも人垣がつくられている。

「あの用心棒たちが呉作さんの家に押し入って女房や娘たちを次々と……」

あとはいわなくてもわかった。無理やり手込めにしたということだろう。

「ヤツらはまだ、なかにいるのか?」

「ああ、もう一刻たつが出てこんのじゃよ」

「……わかった」

権兵衛が鍔元に手をかけ人垣を割った、そのとき――
がらり、と板戸が開いてぞろぞろと三人組が揃ってでてきた。みな一様に、にやにやとべたついた笑みを浮かべている。
三人組の一人、塚田伝兵衛が権兵衛の顔をみとめて手をあげた。

「いやあ、ご同輩、どこへいっておったのだ。おかげで誘いそびれたではないか」

「せっかく我らと“きょうだい”になれる機会を与えてやろうと思ったのに……ん、なんだそれは?」

岩尾重蔵が鍔元に手をかけている権兵衛を見とがめて目を尖らせる。

「おまえらごときと“きょうだい”になろうなどとはおれは思わぬ」

「まあ、そういうな」

一番最後にでてきた梶木源内がつかつかと寄ってきて耳元でささやく。

「おぬしも同じだろう。村人の噂は耳にしておるぞ」

「!…………」

やはり、村人のだれかにみられていたのだ。権兵衛は鍔元にかけた手をほどいた。
がっはっは、と高笑いをあげて梶木たちが去ってゆく。
権兵衛はその姿を背中で見送るしかない。
家のなかからは女房、娘たちのすすり泣きが聞こえる。「すまねえ、すまねえ」と男の声が重なる。
突然、針のような視線を感じて権兵衛は顔をあげた。
周囲をみまわす。
村人たちが権兵衛をにらみつけている。
こいつも同類だ。飢えた野良犬の一匹だ。
視線がそういっている。
いたたまれなくなって権兵衛は踵を返した。

――村をでろ。すぐさま、その足でだ。

里嶋庄八郎の忠告がいつまでも脳裏に響いていた。


第五章につづく