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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の(むかしの)約束

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 私は以前、妻にもキクちゃんのことを話していた。でも、ロマンス的な内容ではなく、ただ“大学時代にとてもお世話になったお姉さん”と言うくらいに表現していたが、電話をかけて来られたら怪しまれるのは間違いない。

「ああ。電話番号は聞いた?」
「うん。個人携帯にかけてくださいって」
「ほう。個人携帯に? 相当急ぎのようだな」

 私は何食わぬ振りをしたが、心臓の鼓動は言う事を聞かない。番号を教えてもらって、電話を切った。

「大学職員さんですか?」
「えー。なんでもないよ」
「例のキクちゃんですね」

 小原はキクちゃんの話を知っている。去年、英語検定の話が出て、その試験官だったキクちゃんにどれほどお世話になったのか、少し話したことがあったから。

「会うんですか?」
「いや、何も用はないから、今更会ったりしないよ」
私は余裕の表情を作って話した。
「でも電話するんですか?」
「うん。待ってるみたいだから」
「やっぱり何かあるんですよね。おもしろそう」
「何言ってんだよ。もう25年ぶりだよ」
わざと大げさに笑いながら、携帯に電話番号を打ち込んだ。
「余計に怪しいじゃないですか。あたし、どこか行ってましょうか?」
「いいや、いいよ。何でもないから」

 小原に表情を見られたら嫌なので、窓の方を向いた。相手は3回ほどのコールで出た。
「はい、もしもし」
(どうしよう? なんて話せばいいんだ? しまった。やっぱり一人の時にかければよかった。)

「・・・木田ですけど」
「ヒロ君?」
「キクちゃん。あ、会いたい!」

「・・・!」
 小原はひっくり返った。