聞く子の(むかしの)約束
デザートに運ばれてきたメロンを食べながら、
「そう言えば、当時のお城の側のマンションは、分譲物件でしたよね」
「あれ、結婚した時に売っちゃって、今は駅の近くに住んでるの」
「ああ。そうだったのか。もう滅多に行かないところだけど、去年の夏に近くを通った時、わざとマンションの前まで行って、懐かしんでました」
「やめてよ。ストーカーみたいなこと」
眉を寄せて言うキクちゃんに、気持ち悪く思われたのかと、私は少し焦った。
「だって、昔の約束、破ったんだもん。そしたら我慢できなくなって」
「どんな約束のこと?」
「あのテディベア、見付けたんです」
「あ。・・・あれ、まだあるの?」
「あった」
「中身は?」
「うん、手紙も取り出して読んだ」
「・・・いつ?」
「だから去年の夏」
「おそい!」
「だって、『絶対見るな』って言ってたでしょ」
「お・そ・い! 絶対見ると思って渡したのに。遅すぎ!」
「でもあれ見た時、初めて分かったんだけど、あのぬいぐるみがプレゼントじゃなくって、中に込めた気持ちがそうだんたんですよね」
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ヒロ君へ
これは、“プレゼント”です。
カッコイイ大人になるまで、待ってる。
KIKUKO
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キクちゃんは少し赤面した。
「ふふふ、成長したじゃない」
「カッコイイ大人になれましたでしょうか?」
「まあそうね。ヒロ君は、今の生活に満足してるの?」
「うん。仕事も家族にも不満はない。でも何か心に引っかかることもあったんだけど、そのひとつが今日解消されたから」
「うん。私もヒロ君が満足してるの聞いてよかった。それじゃ、私も今の生活で満足って言えるわ」
「ありがとう、キクちゃん」
作品名:聞く子の(むかしの)約束 作家名:亨利(ヘンリー)